窪田:日本人は他の誰にもできないような細かい手技を身に付けるのは得意で、緻密な実験もできるのですが、立てた仮説が本当に革新的で世の中があっと驚くようなものなのかというと、そうではないことが多い。どちらかというと発想するのは苦手かもしれないなと。
宮下:なるほど。たしかにその傾向はあるかもしれません。
窪田:私が研究者として最初にアメリカへ行った2000年頃は、ハーバード大学でもワシントン大学でも、日本の研究施設と比べたら20年くらい前の道具を使っていました。「あれ? 意外とやばいところに来てしまったのかも……」とショックを受けたくらいです(笑)。
ただ、高価な実験器具がなくても、立てている問いが素晴らしいから、科学の進歩につながるような発見がどんどん出てくる。たとえ単純な実験でも、そこから導き出される答えは画期的なものでした。アメリカでの経験を通して、研究者として大事なのは「問いの立て方」だと思うようになったのです。
宮下:問いを立てるのは、AIにはまだ難しいことですね。
窪田:そう思います。AIに聞いても答えられないような問いを立てて、それを証明していく。それによって、これまで分からなかった生物学の謎が解き明かされていきました。仮説の中でも「優先順位が高いか」「本質的な問いなのか」を考える習慣がついたのは、私にとって大きな収穫でした。
宮下:「問いの立て方」は、まさに学生たちへの指導でも大切なことだと感じます。AI時代にこそ求められる力なのではないでしょうか。
「答え」ではなく、「問い」を考えさせる教育の重要性
窪田:宮下先生は、大学での教育に10年以上携わられていますよね。大学に入るまでの受験勉強では、すでに答えがある問題を解くことが求められていると思いますが、そうした勉強の仕方の弊害を感じることはありますか?