高額な早期警戒機が日本では「欠陥機」だった 周波数帯をまともに使えない大矛盾

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かつての防衛庁は、買い物官庁と揶揄されてきた。それは戦車や戦闘機などを買うことだけが仕事だという意味だ。軍隊のハードウエアさえ揃えて、軍隊らしくみえればそれでいいということだ。

通信の問題を放置するのも「買い物官庁」の意識が抜けていないからだろう。「どうせ戦争なんて起こるはずがない」という楽観主義が覆う中で、国防を全うできるのか、甚だ疑わしい。

これは防衛省だけの問題ではない。すぐれて政治の問題といえるだろう。政治こそが、より大きな視点から防衛省・自衛隊を縛る規制の撤廃を提起するべきだ。

本来安保法制の前に、軍隊と同じことができない自衛隊を縛る法制度や規制を撤廃することを行うべきだった。作業は膨大だが、憲法の解釈の変更が必要でもなく、基本的に既存の法律に「ただし自衛隊は除く」と書けばいいだけである。

米軍は日本の国内規制を受けていない

対して米軍のE-2Cなどは日本の国内規制を全く受けていない。常識的に考えれば、その周波数帯を自衛隊が使うのが問題なら、米軍が使うことも禁じるべきだろう。

ところが現実はそうではない。米軍に許されて、自衛隊には許されていないことに我が国の政治家は疑問を持たないのだろうか。

仮に空自のE-2CやAWACSと米空軍の戦闘機部隊が共同作戦を行う場合、米軍側は空自のE-2CやAWACSの能力に信頼は置かないだろう。共同作戦を拒否される可能性すらある。また米国側は、このような「浮世離れした平和ボケ」の国家をまともに同盟国として考えるだろうか。

現在の日本の政治家の多くはこうした現場の問題を知らない可能性が高い。小泉内閣ではこのような自衛隊を取り巻く法の不備を問題視し、有事法制や国民保護法などが整備され、以前より格段の改善が見られた。だがその後の第一次安倍内閣から現在の第2次安倍内閣までこの問題に挑む内閣はなかった。

つまり安倍首相と彼のスタッフは、このような問題を知らないか、あるいは放置しても大丈夫だと思っているのだろう。予算を増し、憲法解釈を変えれば国防を全うできると無邪気に信じ込んでいるのだろうか。

そうであれば、彼らの意識と見識はベクトルが違うだけで、国会前でデモをおこなったSEALDSと同じレベルである。プロの政治家としての見識に欠けている。率直に申し上げれば安倍首相は軍事音痴である。これは基礎工事の手抜きをして高層ビルを立てるようなものだ。

現実を知らない軍事音痴が、高邁な「かくあるべし」という国防論を振り回すのは、極めて危険だ。このままでは自衛隊の意識を変えることもできず、今後も夢想的な「高価な玩具のショーケース」的な状態が続くだろう。

防衛費を増やすことだけが国防の強化ではない。いまからでも、自衛隊を縛る法や規制を全面的に洗い出し、法改正や規制を撤廃することを始めるべきだ。そうしなければ、防衛省や自衛隊の意識も変わらず、国防のためと称した税金の無駄使いが延々と放置されることになる。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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