まいは大学を卒業後、公務員として働いていた。年収はおよそ600万円。不祥事さえ起こさなければ、定年まで安定した職を維持できる立場だ。華やかなブランド品や高級グルメにも興味がなく、貯金も堅実にしていた。
「20代の頃、まわりがどんどん結婚していくなかでも、私は“私は私”って思ってたんです」
そんなまいの気持ちに変化が訪れたのは、年末にふと立ち寄った地元の温泉旅館でのことだった。1人旅が趣味で、何度か訪れていたその宿で、偶然、大学時代の友人と再会した。
「彼女は3人の子どものお母さんになっていて、ご主人と一緒に家族旅行に来ていました。こっちは1人、あっちは5人。大学時代には同じ講義を受けて、同じ場所で笑い合っていたのに。あれから16年が経って、気づけばまったく違う人生を歩んでいたんだなって思ったら、胸の奥が、少しざわついたんです」
そして、旅館の朝食会場で、彼女は家族5人がにぎやかに笑いながら食事する姿を横目に見ながら、1人分の朝食を静かに食べた。その光景が深く心に刻まれたまま帰宅したが、その2日後が12月31日だった。
「年が明けようとしていたとき、近くのお寺から除夜の鐘が聞こえてきたんです。そのときに“私は10年後、20年後も、おばあちゃんになっても、ずっと1人で除夜の鐘を聞くのかな”って思ったら、急に寂しくなって」
結婚していることが正解だとも、家庭を持つことが絶対だとも思わず生きてきた。けれど、「誰かと一緒に過ごす」という選択肢を遠ざけすぎていたことにも、気づいたという。
筆者は、まいに言った。
「今まだ38歳。これからの人生をどう生きるかを、自分で選び直せる年齢ですよ。まずは、動くこと。それが人生の景色を変える第一歩です」
人と分かち合う時間が大切
「結婚って、気持ちがあれば、いつでもできるものだと思っていました」
そう話したのは、なおこ(39歳、仮名)だ。広告制作会社に勤める彼女は、ショートボブにパンツスタイルが似合う、洗練された雰囲気の女性だった。
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