生成AI活用の最前線で起きていることとは?「アメリカの大手企業では業務プロセスの中核に組み込まれる事例が増えている」

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生成AIの最も実用的な分野の一つが「コード生成」である。テハル氏も次のように述べている。

「今後数年で、あらゆる業界において、コードの大部分はAIが書くようになる。生成AIはもはやツールではなく、新たなエンジニアリングリソースとして機能している」(テハル氏)

若手エンジニアがプロンプトを記述するだけで、フロントエンドやバックエンドの開発を自動で進めることが可能になりつつある。アメリカではコード生成分野での活用が普及しており、開発工数の短縮と品質の安定化が進んでいる。

さらに、生成AIによるコード生成は、単なる「補助」や「時短」では終わらない。今後はAIがコードベース全体の設計思想を理解し、ユーザーインターフェースの設計、バックエンドとの連携、セキュリティ対策の組み込みに至るまで、包括的な開発支援が可能になると予測されている。

この動きは日本におけるIT人材不足やSIerへの過度な依存を見直す好機でもある。自社内にエンジニアリング力を育成し、AIと協働する形で業務開発を推進していく体制づくりがカギとなる。

“全社導入”よりも“着火点”を見つける

生成AIの導入において、最初から全社展開を狙うのではなく、「着火点」を見つけて小さく始めることが重要だという。

「AIツールは全員に配布すべきだ。ただし、最初は使いこなせる人材に自由度を与え、小さな成功事例を積み上げることが最も効果的である」(テハル氏)

ポイントは、AI導入を“業務改善プロジェクト”としてではなく、“業務変革への探索”として位置づけること。初期段階では、ROI(投資利益率)を厳密に求めるのではなく、どれだけの社内ナレッジが蓄積されたか、どれだけの部門横断的な議論が生まれたかといった「副次的成果」にも着目するべきなのだ。

加えて、AIの社内導入を一時的なプロジェクトにせず、「社内のAI文化の醸成」に発展させることが長期的な競争力につながる。定期的なナレッジ共有会や、社内ハッカソンの開催、若手社員へのチャレンジ機会の提供など、文化として根付かせる工夫が求められる。

テハル氏は、生成AIによって業務自動化が次の段階へと進んでいることも強調した。「AIエージェントは、従来の手順型自動化とは異なり、タスクの目的や前後関係を理解し、適切な判断を下す能力を備えている」。

AIエージェントとは、マニュアル通りのプロセスを実行する自動化ではなく「推論」と「意思決定」を組み込んだ業務遂行エンジンである。例えば、医療や保険業界において、診断レポートから請求処理までを一気通貫で担う“業務担当型AI”が試験導入されており、その実用性が急速に高まっている。

また、エージェント同士が連携し、複雑な業務プロセスを分担しながら処理する「マルチエージェント・システム」の構想も現実味を帯びてきている。アメリカではそのための通信プロトコルや、データの意味を相互に理解し合う仕組み(たとえば「Agent Protocol」や「MCP」と呼ばれるもの)も登場し始めている。

このように、AIを“補助ツール”ではなく“協働者”として捉える発想の転換が、日本企業にとっても重要になるであろう。

AIが常駐し、業務判断を部分的に担うようになる時代に備え、業務定義、権限設計、責任分担のあり方そのものを見直すことが求められそうだ。

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