それでは実際にどんな対米協力ができるのか。最近の報道によれば、日本側は「日米造船黄金時代計画」の策定を模索しているとのこと。「黄金時代」というトランプさん好みの言葉を使っている点に、関係者の苦心の跡がうかがえる。具体的には、「修繕能力の拡大」や「北極圏での航行などに使われる砕氷船協力」などが挙がっているという。
すなわちアジアに展開している米海軍の艦船を、日本の民間造船所で修繕できるようにする。これまでオーバーホールのたびに西海岸に戻っていたものを、横須賀や佐世保で修理できるようになれば、手間と日数を大幅に削減することができる。船をめぐる日米の緊密な協力は、アジアにおける抑止力強化にも役立つだろう。日本の民間造船所としても、新たに高付加価値の業務を得られるというものだ。
実は、米軍艦船の修繕は、日米防衛指針(ガイドライン)に基づく後方支援という形で、すでに一部で行われている。ただし軍艦を日本の民間企業が修理する際には、当然ながら軍事機密に接触することになり、いわゆる「セキュリティ・クリアランス」を厳重にすることが求められるだろう。今回の日米関税交渉は、防衛問題を切り分ける形で行われているが、ここでは防衛協力が「隠し味」的に使われることになる。
もうひとつ、北極圏での砕氷船というネタも興味深い。近年、地球温暖化のせいで北極海の氷が溶けつつあり、近い将来に北極海航路が使えるようになるとみられている。その場合、アジアと欧州を結ぶ民間船の距離短縮になるし、地政学的な意味も大きなものになる。そこで北極海における砕氷船の能力が重要になってくる。
ところがアメリカが常時使える砕氷船は、沿岸警備隊が保有する「ポーラースター」という古い船が1隻だけだという。逆にロシアは砕氷船を18隻保有し、北極海における軍事的なプレゼンスを強めているし、中国も同様に関心を強めている。アメリカとしては、急いで砕氷船を建造したいところだが、そのための技術も基盤もないのが現状だ。日本には南極観測船「しらせ」を造る技術力があるので、この面でも協力は可能だろう。
「日米造船協力は難しいが、やってみる値打ちがある」
こうしてみると「造船協力」というカード、いろいろ難点はあるけれども、交渉材料としての可能性を秘めているように思える。個人的な印象論で恐縮だが、日本の造船会社や海運会社の人たちは「日の丸」を背負って仕事をしている。船籍はリベリアやパナマでも、船員はほとんど外国人でも、「日本で造られた日本の船」であることが彼らの誇りなのである。
当たり前のことだが、日本は島国であり、海洋国家である。とにかく船がなかったら、食料もエネルギーも事欠くことになってしまう。そしてシーレーンを守るためには、日米同盟が欠かせない。そんなわけで日米造船協力は、「難しいけれども、やってみる値打ちがある」というのが筆者の見解である(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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