とはいえ日本の造船業は、とても長い不況に耐えてきた業界だ。1980年代までは日本が世界最大の造船国だったが、その後は高コスト体質に苦しみ、国策として造船業を支援する中国や韓国に追い上げられてきた。さらには1ドル=100円以下の円高に何度もさらされ、最近では人手不足など、いつも逆風の中で生き残ってきた。
独特の「エコシステム」で生き残ってきた日本の船の世界
筆者も過去にいろんな造船所を見学しているが、狭いドック、古い設備、高齢化した社員など、「よくやっているな~」と感心することが少なくない。それでもLNG(液化天然ガス)船や自動車運搬船などに強みがあり、品質と技術力には定評がある。要するに、「日本のモノづくりここにあり!」という古株の業界なのである。
たぶん、多くの方が勘違いされているのではないかと思うが、日本最大の造船会社は三菱重工業ではない。非上場企業の今治造船である。愛媛県今治市の周辺にはユニークな造船集積地があり、「今治モデル」と呼ばれている。今治造船を中核とする水平的な分業ネットワークがあり、船体設計から部材加工、塗装、内装までを地場の企業が分担している。
広島銀行や伊予銀行などの地域金融機関が、船舶向け融資のノウハウを有していることも大きい。さらに瀬戸内海地域には、独立系の船主さん(オーナー)が多いことも日本独自の仕組みとなっている。つまり稼業として船舶を保有している人たちだ。日本における船の世界は、海運会社と造船会社、それに船主がリスクを分散して共生している。
海運業は国際競争が激しく、船の値段がしょっちゅう乱高下する。かつては海運会社や大手商社が自前で船を保有していたが、市況次第で保有する船舶を減損処理しなければならず、そのたびに決算が左右されてしまう。そこで船主さんが新造船を発注し、造った船を海運会社にリースして傭船契約を結び、長い時間をかけて資金を回収する仕組みができあがった。今風に言えば「エコシステム」である。
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