日本側がアメリカに提示するメニューとしては、農産物の輸入拡大策や非関税障壁の撤廃、経済安全保障をめぐる協力などが挙がっているようだ。事務レベルの協議に、日本側から外務省、経済産業省のほか国土交通省の幹部が参加しているというから、自動車の安全基準に関する踏み込んだ措置があるのかもしれない。
アメリカの造船業界は何に困っているのか
そんな中で、日本側の交渉カードとして「対米造船協力」というネタが浮上している。アメリカ国内での船舶建造能力を支える設備投資や人材育成などの協力も、有力な取引材料になるらしい。現に4月28日にはジョン・フェラン海軍長官が訪日し、中谷元防衛相に対してアメリカ造船業への協力を求めている。はてさて、何にお困りなのだろうか。
アメリカの造船能力は、第2次世界大戦中には世界最強を誇ったが、戦後になって急速に衰退した。もともと国内に商用船のニーズが少ないこともあって、今では自国で民間船が造れないほどの状態になっている。グローバル化全盛時代には、「どこの国の船でも、使えれば問題ない」と言っていられたが、コロナ下のサプライチェーン問題で冷や水を浴びせられた。自前の船を持っていなかったら、もしものときに必要な物資が届かない、輸入品の物価が高騰する、なんてことになりかねない。
そこでトランプ大統領は、「船に関する産業基盤を再建せよ!」との大統領令を発している。鉄鋼や自動車産業などと同様、製造業の復活を目指すとともに、中国の海洋進出へも対抗していこうという狙いである。
それでは世界の造船業は今、どんな状態なのか。世界の新造船シェアは中国が半分、韓国が4分の1、そして日本が15%程度と、この3カ国で9割程度を占めている。船の値段は鉄のコストに左右されるので、昨今は鉄鋼の過剰生産問題を抱える中国製の船には価格競争力がある。アメリカとしては、韓国か日本に協力を求めるしかない状況だ。
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