この辺がいかにも日本的なのだが、海運会社と造船会社と船主さんたちに資本関係はほとんどなく、長期的な人間関係でつながっている。「三方良し」というと本来の意味とは違ってくるけれども、とにかくネットワーク型なのだ。ゆえに「政府のお願いですけど、アメリカの造船業を支援してください」と言っても、簡単に意思決定できるわけではない。
キャパシティの問題もある。船の建造には長い時間がかかるので、造船会社は将来の造船需要と手持ちの工事量を見合わせながら、いつもギリギリの状態で建造を受注している。「アメリカ向けの船も造ってくれ」とか、「西海岸の造船所に投資してくれ」と言われても、すぐに引き受けられるとは限らない。
アメリカ民間造船業の再建はそう簡単ではない
少々心配なのは、トランプ政権が「造船所を造って、作業員を連れてきて、後は日韓の技術協力があれば、すぐにでも船はできる」と勘違いしているかもしれないことだ。
真面目な話、これが軍艦であれば話はそれほど難しくはない。なぜなら防衛装備品の建造は、コストを考えなくていい。政府という買い手は、「総括原価方式」で船の代金を払ってくれる。そして実際にアメリカは、空母や原潜はちゃんと造ることができるのだ。
ところが民間船の建造は国際競争にさらされる。しかも船は不動産ならぬ「動産」として、動かしてお金を稼いでもらわないとマズいのだ。ゆえに民間の船舶は、運航から管理、メンテナンス、最後はスクラップして再利用に至る長期サイクルの資産となる。金融や保険、傭船といった船をサポートする制度も必要だ。ゆえに民間船のほうが、軍艦よりもよっぽど高度な技術やシステムが必要とされるのである。
ということで、アメリカの造船業を再建したいという心意気はいいとしても、トランプ政権が4年間の任期の間に達成できることはそれほど多くはないだろう。
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