消費者や広告主の不満が多いのに、なぜXなどのソーシャルメディア企業の市場支配力は絶大なのか。ノーベル賞学者スティグリッツによる解説

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その主な理由は簡単だ。ネットワーク外部性や勝者総取りの枠組みのせいである。フェイスブックのようなプラットフォームを利用する価値は、そのプラットフォームをほかの人がどれだけ利用しているかに左右される。

最初は、誰もがもっとも質の高いプラットフォームに引き寄せられ、そのプラットフォームだけが生き残る。だがいったんそうなってしまうと、やがてそのプラットフォームが相対的に(ほかのイノベーターが提供する新たなテクノロジーに比べて)非効率的になり、ほかのプラットフォームほど社会のニーズも利用者のニーズも満たせなくなったとしても、それでもそのプラットフォームは優勢であり続けることができる。

ターゲティング能力を向上させて利益を得る

だが、ソーシャルメディア企業の絶大な市場支配力や利益の成長には、もう1つ別の要素がある。そのビジネスモデルは、自社プラットフォームでの利用者のやり取りから得られる情報の収集・利用・蓄積に基づいている。

つまりこれらのプラットフォームは、利用者のデータの価値を収益化してきた。自社が所有している莫大な量の情報を効率よく利用すれば、メッセージ(広告など)のターゲティング〔訳注 ターゲットを絞ってマーケティングを展開し、効率よく収益をあげること〕が可能になる。それにより利用者の関与がさらに深まると、それがさらなる情報を生み出す。

十分に時間をかけて吟味する必要のない商品の場合、ターゲティングを「向上」させれば、利用者は自分にとって関連性の高いメッセージを受け取り、それをきっかけに何かを購入し、ウェルビーイングを高めることができるかもしれない。

しかし残念ながら、ターゲティングを向上させるのはそのためではない。その目的は、利益を増やすことにある。利益は、広告収入から生まれる。広告収入は、広告主の販売利益が増えるよう利用者を誘導することで生まれる。

広告主の販売利益は、価格差別を効果的に利用すれば増やせる。価格差別とは、ターゲット別の価格設定を意味し、消費者ごとに異なる価格を割り当てる。そうすれば、個別の消費者余剰(ある商品に対して支払ってもよいと思う価格から、実際に支払う価格を差し引いた残りの金額)をもとに、より多くの利益をあげられる。

また、ギャンブル依存症など、利用者が持つ弱みにつけ込んで販売を増やし、利益を生み出す方法もある。こうして広告主の利益が増えれば、それにより大手IT企業の広告収入は増え、その収益はますます増加していく。

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