錯覚から探る「見る」ことの危うさ《第6回・最終回》--錯覚とタイリングアート
第1に、図5に示すように、タイルAとBに共通のひし形を付随させる。タイルを置くときは、このひし形がチェッカーボードのひし形と一致するように置く。
第2に、タイルAを変形させて、タイルBのすき間へ溶け込ませたい。そのために、図6に太線で示すように、タイルBを四つ並べたとき、それらに囲まれてできるすき間を図形Cとする。Cは、タイルBの境界を4つに分割して、適当な順に拾って並べたものであり、必ずしも閉じた図形とはならないが、この時点ではそれで構わない。
第3に、図7に示すように、タイルAからすき間図形Cへの連続変形の列を作る。これには、コンピュータグラフィックスの分野で確立されているモーフィングという技術を用いればよい。
第4に図7で作ったタイルを、チェッカーボードの白のひし形に並べる。そして、上半分では白のひし形に置いたタイルが閉じた図形となるように境界をつなぎ、下半分では、黒のひし形に置いたタイルが閉じた図形になるように境界をつなぐ。その結果が、図8であり、これにタイルのすき間を調整し、彩色したものが図3のタイリングパターンである。
この方法では、2つのタイルA、Bをどのように与えても、それらをつなぐタイリングパターンが生成される。同様の方法で作ったパターンの例を図9、図10に示す。図9では、上下方向の変形を左右方向の変形に置き換えたものであり、エッシャーの作品「昼と夜」(1938)でも使われているパターンである。図10は、背景のチェッカーボードを別のものにした例である。
このように、コンピュータによって「空と水」風のタイリングアートを自動生成できるようになったので、建物の壁や床や庭を飾る新しいタイルとして、今後工業化も期待される。
■図9 チョウとミツバチ
■図10 桜の花と葉
すぎはら・こうきち
明治大学特任教授、工学博士。岐阜県生まれ。電子技術総合研究所、名古屋大学、東京大学などを経て現職。2010年ベスト錯覚コンテストで優勝。趣味はそば打ち。
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