「子どもの熱で休む同僚が悪いわけではないが…」"子持ち様"論争はなぜ起きるのか 職場に潜む分断の“根っこ”とは?

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小学校5年生の娘を育てる家事シェア研究家の三木智有さんは、次のように分析する。

「そもそも、対立の構造が間違っていると思います。子持ちVS子なしではなく、本来は社員VS会社で、仕組みに問題があると思います。でも、そちらの構図では炎上しないですね」

「子持ち様」という言葉には揶揄的な響きがあり、悪いことをしていないはずの言われた側が、つらい思いをする。その問題を指摘するのが、家族社会学者の慶應義塾大学・阪井裕一郎准教授だ。

阪井准教授は「フォローする同僚に思いやりを持つことが期待される一方、休むほうは罪悪感を持ち、やがて居心地が悪くなって退職する。そのような個人の努力や思いやりを当てにする環境は、変わっていかないといけないと思います」と話す。

「大切なのは仕組みと文化を作ること」

構造が問題だとすれば、互いにモヤモヤする現状をどのようにすれば変えられるのだろうか。ワーキングペアレンツ向けの転職サービスを行うクロスタレントの上原達也社長は、「大切なのは仕組みと文化を作ること」と話す。

同社は2019年7月に創業。「求職者の方とのオンライン面談の議事録は、社内のクラウドシステムに格納していますので、やり取りの内容を他の社員も共有できます。その仕組みがあるうえで、『この日は都合が悪いので代わってください』と、フラットに相談できる文化があります」と説明する。

その結果、創業時の育休取得者は女性が9割を占めていたが、2022年4月からの法改正で、男性従業員にも育休取得を促すことが企業側に義務づけられたことを受けて男性比率も増加し、直近では4割程度になることもあるという。

同社に応募してくる転職希望者は月1000人ほど、30~40代が中心だ。「リモートワークやフレックス制度があるならフルタイムで働きたい」という求職者の声が最近かなり増加したという。

一方、受け入れ企業を発掘するのは大変で、それは子育て支援制度をきちんと運用する文化のある企業が限られているからだという。

同社の紹介先企業はIT系や、歴史が浅い企業または事業部が中心で、ほとんどがリモートワークもできる。転職できた人からは、「入社時から有休が取れるので、安心感があります」「希望する働き方にできたので、無事に仕事ができています」といった声が届く。

自身も小学生の子どもを2人持ち、共働きで家事もシェアする上原社長は、「自分で新しい事業を始めるにあたり、仕事とキャリアというテーマについて当事者意識と課題感がある」ことから人材紹介業を選んだ。そして、「子育てを壁とする文化を乗り越えないと、社会全体の持続可能性がなくなってしまう」と危機感を語る。

「長時間会社に居て、尽くす人材こそが評価されるべき、という昭和のマインドでいると、子育てや介護、不妊治療中の人はそっと離脱するか、冷遇されつつ働くしかなくなってしまいます。そういう人材を生かしたほうがいい会社になる、と経営者が本気で思わないと、結局会社が損をするんです」

「子持ち様論争」が起きる原因は、企業側が子育て中の人に対する支援だけを行い、他を置き去りにする仕組みにある、とも指摘する。

「長時間労働の必要がない仕事の進め方にする。長期の育休を取った社員をチームでフォローしなければいけない場合、チームのメンバーに奨励金を出すなど金銭的なインセンティブで不公平感をなくす例が、大企業を中心に増えています。

映画を観に行くなど好きな理由で休め、休暇の理由を申請時に書かなくてもよい『なんとなく休暇』を設けるベンチャー企業もありますよ」

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