米国の尻込み状態は憂うべきことなのか--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

チョードリと同様、ケーガンも魅力ある著述家だ。ケーガンの主張は道理にかなっているように思える。米国の軍事力に関する評価はおそらく正しい。米国が果たしている世界の憲兵という役割を脅かすような勢力は、ほかに存在しない。

米国の庇護があるかぎり日本と欧州は成長しない

だが、米国のリーダーシップがないと世界の秩序が崩壊する、という前提は、さほど確かなものではない。フランスのルイ15世は死に際に「私の死後、世界は大混乱に陥る」と言い残したといわれる。権力者は皆、このようにうぬぼれるものだ。

第2次世界大戦後、各国の植民地が次々と独立していったが、当時のフランスとオランダは、アジアの植民地独立は混乱を招くだろうと信じ込んでいた。また、現在の独裁的リーダーたちも「民主主義はたいへんけっこうだが、国民にはまだその準備ができていない」と言い張る。権力者には、自分たちの支配から解放された世界が大混乱に陥らない結末など、想像もできないのだ。

第2次世界大戦後の欧州では、米国の軍事力を後ろ盾にしたパックスアメリカーナが、「ロシアを締め出し、ドイツを抑え込む」よう設計されていた。アジアでは、共産主義の封じ込めをもくろむ一方、日本やインドネシアなどの同盟国に経済力の構築を認めた。民主主義の普及に主眼を置いていたわけではない。最大の関心は、アジア、欧州、アフリカ、中東、南北アメリカの共産化を防ぐことだった。

だが今や、共産主義という不安材料は消え、各国が自らの抱える問題に手を着ける時期が来ている。たとえば、日本は、アジアのほかの民主主義国家と協力することにより、台頭する中国とのパワーバランスの調整を図るべきだ。同様に、欧州諸国には、米国に頼らずとも、自らの安全保障を確保する力がある。

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事