伊勢丹「スーツ2着5万4000円」が売れるワケ 安いだけでは売れなくなった

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2着5万4000円のスーツには「インポート生地」「日本製」「トレンドスタイル」という3つの要素を揃えた

このスーツの特徴は、「インポート生地」「日本製」「トレンドスタイル」という3つの要素を揃えたこと。そして、5万4000円という価格設定も、おしゃれとコストパフォーマンスの間で揺れる男性のニーズを絶妙に突くポイントだった。

実は以前から、これよりもさらに安い2着2万~3万円台の商品も目玉アイテムとして、投入されていた。

「毎日の仕事着であるスーツは言ってみれば消費財。誰もが、高額なお金をかけられるわけではない」(太田さん)。そこで大市では、より幅広いお客様へに訴求するように“2着よりどり”のスーツを取り入れてきた経緯がある。

バーゲンセールをきっかけに、いつもは敷居の高い百貨店を訪問し、買い物をするお客もいる。百貨店側にとっては、購入客の裾野を広げる貴重な機会でもあるのだ。

安いだけのスーツは売れなくなった

しかし、長年続けるうちに、店側の狙いと、訪れる客側のニーズに少しずつズレが生じ始めていた。

実際の数字として表れたのが、昨年10月の催事での購入客の傾向だ。同店では独自の指標でリピート客、フリー客を分けて計算している。この独自の指標によると、フリー客の売り上げが前年10月の催事と比べて7%減になったのだ。「こうした催事というのは、単体での売り上げを追いかけがち。どうしても“ガラパゴス化”してしまう。でもこの減少をみて、もうこれまでのビジネスモデルは通用しないと感じた」(太田さん)。

客と接して、そのニーズ変化を感じてきたのが、アシスタントバイヤーの口元勇輝さん、販売担当の稲葉智大さんだ。

「2種類ある2着よりどりスーツのうち、より安い2万円台のものが6〜7割売れていたのに、ある時期から3万円台のほうにシフトした。単品のスーツも、より上の価格帯が求められているという実感があった」(稲葉さん)

「市場にスーツに対する知識が浸透し、よりよいものを求める気持ちや、こだわりが強くなっていることを感じた。そこで、高品質でコストパフォーマンスもどこにも負けない“日本一のスーツ”を作る取り組みを始めた」(口元さん)。

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