モノにあふれているのに「何かが足りない」「もっと何かが欲しい」と感じてしまう人たちが知らない、脳に組み込まれた「欠乏ループ」の正体
ものにあふれた現代の世界では欠乏脳が必ずしも有効に働かないことは、科学によって示されている。
いまではむしろそれは不利に働く場合が多く、さらには外部の力がその働きにつけこんで、私たちの決断に影響を与えようとする。
一見断(た)ち切りがたい非生産的な行動の根源には、欠乏脳の作用がある。私たちが身体的・精神的健康や幸福や、潜在能力を最大限に発揮する力を向上させようとしても、欠乏脳の習慣が大きなブレーキをかけてしまう。
依存症、肥満、不安感、慢性疾患、借金、環境破壊、政争、戦争などはみな、どこまでも多くを望む私たちの欲求から引き起こされているのかもしれない。
「適度」を脅かすシリアルキラー
人類は大きな欠乏のキューをこれまで幾度も経験してきた。ところが、これまで経験したことのない状況下で、コロナ禍が起きた。
それは、テクノロジーの加速的発達によって人間が、切望するよう定められたあらゆるものに豊富にアクセスできるようになったいっぽうで、かつてない知恵を手に入れた企業が欠乏脳の作用に乗じて人間の行動に影響を与えられるようになった時期だった。
何度でもすばやく反復でき、あげく自分を損なうことになる行動が、特に目立つようになった。当時の状況はまるで何か大きな行動パターンが、一種の欠乏のループのごとく作動しているようだった。
私は自分が気づいたこのパターンを「欠乏ループ」と呼ぶようになった。それは、「適度」を脅かすシリアルキラーのように見えた。
世界はいま、パンデミックからは脱したかもしれない。だが、パンデミックが引き起こした渇望と消費の波はおさまっていない。私たち人間はつねに、より多くをめざして前進してきた。
そして、ごく小さな欠乏のキューによってつねに日常生活を巧みに操縦されてきた。たとえ最良のときであっても、こうした欠乏のキューは私たちを、高速で繰り返し消費するという欠乏ループの行動パターンへと押し出してきた。
(翻訳:森内薫)
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