強化される「研究者弾圧」、不合理なトランプ政権の施策はアメリカを"中世"に逆戻りさせる

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このように、連邦政府はとくに基礎研究や大学・研究機関の活動における重要な資金提供者だ。したがって、連邦政府による研究資金の削減は、アメリカの科学技術の進展や学術的な自由に大きな影響を及ぼす可能性がある。

補助金削減がもたらす4つの影響

連邦政府の研究補助金が削減された場合、アメリカの科学研究や技術競争力に、次のような深刻な影響が及ぶと、多くの専門家や機関が警鐘を鳴らしている。

1つ目が、公衆衛生・医療研究の停滞だ。NIHやCDCなどへの補助金削減は、がん、感染症、精神疾患などの研究を直撃する。COVID-19のようなパンデミック対策や、新興感染症への対応力が低下するおそれがある。

2つ目が、論文数や引用数の低下だ。世界の科学論文におけるアメリカのシェアは、すでに中国に肉迫されている。補助金削減のため、質・量ともに研究成果の後退につながる危険がある。

「Nature」や「Science」には、「アメリカの科学の質は、中国の成長により、すでに特定分野で追い抜かれ始めている」との分析が出ている。中国は国家戦略として科学技術投資を拡大しており、AI(人工知能)、量子コンピューター、半導体、宇宙開発などでアメリカに迫っている。AI分野では、すでに中国が論文数や特許出願数でアメリカを上回るとする報告がある。

3つ目が、人材流出と次世代研究者の減少だ。前回も述べたように、大学院生やポストドクター(博士研究員)の多くが、連邦補助金で研究生活を支えている。資金減で研究の継続が困難になり、優秀な人材が民間や海外に流出するリスクが高まる。国際的な頭脳の流入が細ると、アメリカの科学の多様性と質が落ちる可能性がある。

4つ目が、経済成長への悪影響だ。経済学者は、研究開発費は中長期の生産性・成長率に直結すると分析している。

アメリカの経済的繁栄は、第2次世界大戦後の連邦主導の技術投資(インターネット、半導体、AIなど)によるところが大きかった。経済学者のポール・クルーグマンも「科学を軽視する政権は、長期的には国家の競争力をむしばむ」と指摘している。また、「Brookings Institution」「National Academy of Sciences」「Nature」などによるレポートが、このリスクを明確に指摘している。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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