ランニングシューズ戦国時代、ブームの陰に知られざる攻防


「消費者の見る目が厳しい日本で認められれば、世界に通用する」と萩尾氏。アディゼロ匠の開発は、世界的にアディダスのランニングシューズの商品力を一段と向上する役割も担っている。

二つ目はモノ作りへのこだわり姿勢のアピールだ。「アディダスは派手という印象を持たれているが、真剣に質の追求を行っているということを日本人ランナーにもわかってもらいたい」と萩尾氏は言う。

日本勢に欠けるのはチャレンジ精神か

ランニングシューズは、ノウハウのない企業が一朝一夕に踏み込める分野ではない。デザインや素材の良しあしで勝負できるウエアと違い、ランニングシューズに求められる機能は、極めて複雑だからだ。プレーヤーは事実上、一部の大手に限られる寡占市場でもある。

着地時に体重の2~3倍ともいわれる衝撃を受け止めつつ、推進力に変える。足の複雑な動きに柔軟に対応する形状や素材を使いながらも、通気性や軽量性、安定性を損なわず、耐久性も確保する--。「これらはえてして相反する要素であり、すべてを満たすのは難しい」(アシックススポーツ工学研究所フットウエア機能開発チームの磯部真志マネジャー)。

とはいえ、努力が実を結んで商品開発に成功したとしても、自動車エンジンの燃費などと違い、定量的な性能基準を示すこともできない。ランナーには個人差があり、ある人にとってはよいシューズでも、ほかの人にとってはそうではないこともありうる。

だからこそ、ブランド力が生命線となるのだ。「理屈よりもとにかく試しに履いてもらう機会を増やす」とミズノの三宅氏が言うように、ランニング教室の開催など、日本勢の草の根活動は依然有効であろう。

一方で日本勢に欠けているのは、チャレンジ精神かもしれない。たとえば上のコラムにあるように、現在のランニングシューズ市場では「裸足感覚」が一つのブームになっている。従来のコンセプトを覆すまったく新しい発想を持ち込み、この分野を開拓したのはナイキだ。

スポーツシューズブランドに10年勤務した経験を持つライターの南井正弘氏は、「日本メーカーはランナーにケガをさせてはいけないという気持ちからか、新しいことに対して慎重になりすぎる傾向がある」と指摘する。

王者アシックスの牙城を崩そうと動く競合。国内ランニングシューズ市場は戦国時代を迎えている。

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(武政秀明、藤尾明彦 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2012年3月3日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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