90日間延期にはなったが大混乱は続く…「トランプ関税」が引き起こす危険シナリオ

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その間にドイツではヒトラー政権が誕生して、帝国主義に走り、第二次世界大戦へと突き進んでいく。つまり、フーヴァーが大恐慌で困窮に陥ったアメリカ国民を救おうとして保護貿易に走ったことが、第二次世界大戦の背景の1つにあったといえるだろう。

ポピュリズム政権の脆さを露呈した保護貿易主義?

いずれにしても、トランプ政権は4月9日に相互関税を導入。実に100年近くも前の、それも失敗した政策を選択した。保護貿易に勝者はいないーーとはよく言われる言葉だが、トランプ氏は、信頼する取り巻きがでっち上げた妄想を信頼している可能性がある。今回、提示された国ごとの相互関税の計算式も、極めて単純で無謀なものでしかなかった。

根拠なき保護貿易主義は破綻が目に見えているのだが、問題はどういう形で保護貿易主義を撤退させるかだ。イスラエルやベトナム、EUなどの一部が自国の関税を引き下げるなど、擦り寄る姿勢を見せているが、アメリカ国民にとって最も依存度の高い中国からの輸入品が高騰することは目に見えている。

トランプ政権のアメリカ国内での支持率も大きく下がる事は避けられないはずだ。具体的にどんな影響があるのだろうか……。相互関税が続けられた場合、いくつかのシナリオが考えられる。ざっと紹介すると次のようになる。

シナリオ1
世界の農業生産、工業生産が一気に減少する

1930年代のフーヴァー大統領が実施した保護貿易政策では、工業生産高が大きく停滞し、やがて農業生産高さえも減少していく。世界中でモノ不足が深刻となり、アメリカでも餓死する人々が数多く現れたとされている。1932年のフーヴァー政権下では、ワシントンで食料を求める「飢餓行進」に大量の人々が集まったという(『アメリカ大恐慌 上』アミティ・シュレーズ著、NTT出版刊)。今回のトランプ関税がこのまま続けば、世界中で食糧不足やモノ不足が深刻化するはずだ。

さらに、中国との貿易戦争で最も心配されているのが、アメリカで生産されている医薬品の原材料である「API(原薬)」の大半は中国で生産されていることだ。創薬業界はパニックになる可能性がある。さらに、半導体などの原料として不可欠な希少金属などもストップする可能性がある。スマートフォンやPCなどもアメリカは中国製品に依存しており、中国は関税戦争ではまず折れないと考えたほうがよさそうだ。

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