「過労死で亡くなる人は珍しくない」「1枚の単価は200円から」…。業界歴22年の彼女が漫画で"アニメ制作のブラックさ"を伝えるワケ

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進行がドタバタしていると、ギャラの支払いが忘れられることもある。

「連続アニメの最終話なんか、本当にギリギリなんです。放送前日に納品、なんてことも普通にありました。

『このスケジュール、死人が出るぞ!』

って制作部に怒鳴り込んだこともあります。でも、仕事が終わると、

『みんなでやり切った!』

って盛り上がっちゃうんです。戦友みたいな感じになっちゃうんですよね」

過労死が珍しくないアニメ業界

しかし「死人が出るぞ」という言葉はオーバーではなく、本当に過労で亡くなる人もいる。

「過労死で亡くなる人は、珍しくありませんでした。33歳で倒れて亡くなったキャラクターデザイナーもいましたし、私のいた会社の社長も、仕事中に倒れてそのまま亡くなりました。

業界では時々『誰々さんが亡くなった』という話が流れてきます。

『あの人がいなくなったら、その作品どうするの?』

って話になるんです。誰かの死を悼む暇すらないんですよ」

いとうさんの夫も、同じくアニメーターだった。

「夫は演出や監督もやっていた人でした。でも5年前、急に倒れてそのまま亡くなってしまって……。前日まで普通にお弁当を持って出かけてたんですよ。享年は55歳でした。子どもが3人いたので、本当に大変でした」

最近になって、いとうさんはアニメーターとしての仕事を続けながら、漫画も描くようになった。そのきっかけは何だったのだろうか。

「もともと小さい頃から漫画家になりたかったんです。でも、アニメの仕事が忙しくて、なかなか描く暇がなかったんですよ。

それでも、育児や猫との生活を描いた漫画を描いてみたら、出版社の人に『それ読みたい』って言われて、描くようになりました」

「アニメーターとして絵を描くこと」と「漫画を描くこと」の違いは大きいのだろうか?

「全然違います。アニメは“人の指示に従って描く”のが仕事。漫画は“自分で考えて描く”んです。

アニメの仕事に長く関わっていると、漫画制作の脳みそがなかなか動かなくて、最初は苦労しました。でも、アニメの世界に長くいたからこそ、“個人の表現”って本当に大事だなって、あらためて思いました」

いとうさんは現在、アニメーターと漫画家の“二足のわらじ”を履いている。両方を同時にこなす人は、そう多くない。

そして現在、いとうさんは漫画の中で、アニメーターの現実を赤裸々に描いている。

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