揺らぐ「核抑止」の神話、フランスの「核の傘」で欧州を守るのが"無理筋"でしかない理由

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このほか、空軍の戦略航空戦力(FAS)は1964年以来、恒久的な核抑止力を提供してきた。現在は、核弾頭用に設計されたASMP-Aミサイルを搭載したラファールB戦闘機を約50機保有している。また、海軍が運用する原子力海軍戦力はFOSTやFASのような恒久的な抑止力ではなく、緊急事態のための抑止力を備えている。

マクロン大統領は3月18日、空軍用のラファール戦闘機の発注を増やし、製造を加速させる方針を明らかにした。この決定は地政学的な変化に対処することを目的とした、新たな防衛投資の一環としている。

一方、“守られる側”の欧州も動きを加速している。ドイツの連邦議会は、リーマンショックやギリシャの財政危機以来、こだわり続けた財政規律を厳守するための債務ブレーキから防衛費を解放した。EUの執行機関である欧州委員会も、財政赤字の上限に関するルールから防衛支出を除外することを提案している。

"守る側"も"守られる側"も一枚岩ではない

ただ、フランスの核抑止力を欧州全土へ拡大することに対して、フランス国内からも批判の声が上がっている。例えば、極右政党・国民連合のマリーヌ・ルペン党首は、核抑止力を欧州に拡大することは主権の放棄につながると強く批判している。

ほかにも、こんな批判がある。フランスが保有する300個弱の核弾頭は、あくまでフランスの防衛抑止力を想定しており、欧州全体をカバーする能力はない。つまり、核弾頭を増やさない限り、実際には欧州の抑止力にはならないというものだ。

一方、近年では戦術核(小型核兵器)の存在が「限定的な核戦争」の可能性を高めているともいわれる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに対して戦術核の使用をちらつかせている。核兵器が「戦争を防ぐ」ものでなく、「戦争の選択肢の一部」になっている状況が懸念される。

核抑止力が戦争を防げていない現実も無視できない。核抑止力は、核保有国同士で核攻撃をすれば相手も報復攻撃を行い、両国とも壊滅するため、結果として核は使用しないという相互確証破壊が基本理論となっている。しかし、現実には相互確証を得られない可能性もある。

フランスを代表するシンクタンク、フランス国際関係研究所のトマ・ゴマール所長は近年の激変する世界を分析し、「核抑止が機能しないシナリオは想像できる」と語る。マクロン大統領が構想するフランスの「核の傘」による欧州防衛は、非常に険しい道のりとなりそうだ。

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