揺らぐ「核抑止」の神話、フランスの「核の傘」で欧州を守るのが"無理筋"でしかない理由

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加えて、EUもアキレス腱を抱えている。EUの外相に相当するカヤ・カッラス外交安全保障上級代表はウクライナに対して最大400億ユーロ(約6兆5000億円)規模の軍事支援を全加盟国に課すことを提案したが、ハンガリーの反対によって合意できなかった。

EUでは重要案件の決定には全加盟国の賛成を必須としているため、ロシア寄りのハンガリーの存在は再軍備の障害となっている。ロシアの脅威が高まる中で、欧州の再軍備化は喫緊の課題となっているが、こちらの先行きも紆余曲折がありそうだ。

日本は"現状"にどう向き合うべきか

地域の事情は異なるが、日本も核保有国である中国と核保有を主張する北朝鮮の脅威にさらされ、アメリカの「核の傘」の下で安全は保障されるのか、懸念が高まっている。隣国の韓国は核武装への議論を始めており、高みの見物も難しい状況だ。

その一方、テクノロジーが進歩する中で、安全保障の対象はサイバー空間やドローンといった領域に拡大。攻撃の多様化などもあり、莫大なコストがかかる核による抑止を疑問視する意見もある。

第2次世界大戦の敗戦国である日本とドイツは、戦後、極端に防衛力が制限された一方、経済活動に専念してきた。だが、ドイツはロシアの脅威が高まる中で、自主自立防衛へと舵を切った。こうした動きは副次的にドイツの軍需産業にとっては朗報であり、同国が得意とする重厚長大産業は確実に活気づいている。

一方、日韓関係が常に不安定な日本は、隣国と共同歩調をとって中国や北朝鮮の脅威に備える態勢にはない。頼りとするアメリカも、第2次トランプ政権の発足を契機に、同国が日本を守るという従来の構想が揺らいでいる。さらにアメリカ依存の長期化によって主権国家としての意識が希薄な日本では、核使用の判断が国家元首あるいは政府の長に委ねられているという現実を深く考えずに一部の「核保有」に関する議論が行われている。

ロシアがウクライナに軍事侵攻して3年が過ぎ、「力による現状変更」は現実のものになる可能性が高まっている。核抑止だけで世界が均衡を保つ時代が終わりを告げる中、核保有が国の安全を保障する有効性も大きく減衰している。

中国による台湾有事や北朝鮮の脅威に対して、アメリカによる防衛が心もとない時代に突入し、日本も再軍備を迫られている。選択の余地が限られる中、経済復興のカンフル剤にもなる軍需産業の強化は日本にとって検討に値するのではなかろうか。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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