(第36回)猛烈な競争圧力下の中国企業と若者たち

この本のタイトルに「絶望」という言葉があるのだが、原著タイトルThe China Price,The True Cost of Chinese Competitive Advantageに「絶望」という言葉はない。実際、本書を読んで感じるのは、絶望ではなく、むしろ貧困の中にある未来への希望だ。将来への展望を持てない日本の若者と比べてみると、「生きがいを感じているのはどちらだろう?」と考え込んでしまう。

「蟻族」と呼ばれる若者たちもいる。彼らは、農村からの出稼ぎである「農民工」ではなく、大学卒業者だ。しかし、深刻な就職難に直面する彼らの所得は、場合によっては農民工より低い。だから、夜遅くまで勉強して、チャンスをつかもうとする。彼らの一人が勤める会社のエレベーターホールには大きなポスターがあり、次のように書かれている。

アフリカの草原で朝目覚めたガゼル(鹿に似た動物)は、一番足の速いライオンより速く走らなければ食べられてしまうことを知っている。他方で、朝目覚めたライオンは、一番足の遅いガゼルに追いつかなければ餓死することを知っている。だから、ライオンもガゼルも、日の出とともに走り出すのだ。

こうしたむき出しの弱肉強食的競争社会を是認するかどうかは、まさに基本的な価値観の問題だ。しかし、こうした競争相手が、すぐ隣に存在していることは、間違いない事実である。われわれは、それを前提にして行動しなければならない。

同書は、あるアメリカ人の言葉を紹介している。「まだアメリカ国内で労働集約型ビジネスを続けているなら、今すぐに手を引く方が出血多量で死ぬよりましだ」。これは、出血多量に悩む日本の電機メーカーが真剣に耳を傾けるべき言葉だ。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)

(週刊東洋経済2012年2月25日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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