しかし、「陰の工場」という抜け道があると、『中国貧困絶望工場』(アレクサンドラ・ハーニー著、日経BP社)は指摘する。法律を遵守するモデル工場の他に、第2工場、第3工場がある。そこでは、残業はごく普通に行われている。ウォルマートの監視員は、モデル工場しか見ない。陰の工場は、外国人のジャーナリストからは厳重に隠されている。
労働法を守っていては、ビジネスはできない。注文に応えるには、残業を増やすしかない。労働規制や最低賃金は、政府の宣伝にすぎない。これは公然の秘密だ。地元企業なら、地方の役人とのコネを利用して、うまくすり抜ける。これが汚職の温床になる。政治力はカネになる。政治が高度に金銭化しているのだ。そして労働者も違法残業を求める。かくして、過酷な条件下の労働が続く。
絶望ではなくて希望ではないか?
『中国貧困絶望工場』の中で、著者は、編み物工場で働く若い女性工員を詳細にフォローしている。彼女は、中学を中退したので、昇進は難しい。同僚は、仕事が早ければ月2万円の収入を得るが、遅ければ7000円だ。これば、現代版「女工哀史」といえるだろう。
しかし、工場から脱出する可能性は開けている。彼女は上昇志向が強く、チャンスをつかんで不動産仲介の会社に転職した。話し上手で愛嬌があるので、良好な販売成績をあげ、収入も増えた。今では、ボーイフレンドと名刺印刷の会社を始めようとしている。