アフリカのスラムを変える小さな日本企業 スラム出身の若者と二人三脚!

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常連客のエスタさんと経営するレストラン

客が支持するいちばんの理由は適正な価格表示だ。通常、ケニアの小売店は料金表示をしないが、ブルースプーンキオスクは、それをやる。明朗会計。ぼったくり、なし。

「価格がフェアで店長の説明が分かりやすい」。KCCスラムの住民で、ブルースプーンキオスクの常連客、エスタ・ワンゴイさんは言う。自宅からキオスク店舗までは徒歩2分かからない。キオスク店舗のはす向かいでレストランを経営している。20歳から8カ月まで4人の子どもがいて、家族の分もレストラン用の仕入れも、両方ともブルースプーンキオスクで済ませる。パトリックさんと同様、このKCCスラム出身だ。

生活必需品を適正価格で

マーガレットさん

“fair price(価格が適正)”という言葉は他の顧客からも出てきた。マーガレット・ワンブイさん。エスタさんと同じ通りに住む。シングルマザーで、5歳と2歳の子どもを育てながら、草刈りなどの日雇い仕事で家計を支える。トタンとベニヤ板で作られた土間の家にはソファがあり、ソニーのブラウン管テレビとブリトニー・スピアーズのカレンダーがかかっていた。マーガレットさんは、このキオスクで「ウガリと小麦粉、砂糖を毎日買う」。

ケニアでは、エスタさんやマーガレットさんのような人々は、消費者としてボリュームゾーンを形成している。ジェトロ「BOP層家庭訪問レポート」によれば、小規模な売店を経営する家族7人の収入は月2万5000~3万ケニアシリング(1ケニアシリングは約1.23円)。支出は約2万ケニアシリングで、そのうち約6000ケニアシリングは食費となる。ブルースプーンキオスクは、まさに、この生活必需品部分をBOP層に適正価格で提供することで、成長機会を狙っている。

アフリカスキャンの福吉代表取締役は、ブルースプーンキオスクについて、小売業に留まらない事業展開を2つ、考えている。

ひとつ目はマーケティングや調査。アフリカ(ケニア)進出を検討している企業の製品をキオスクで扱い、顧客の反応、購入した場合の使われ方を詳細に観察し、報告する。伝統的な形態の店舗でipadに蓄積したPOSデータが生きる。

前に記したように、記入式のアンケートでは、ある商品が本当に売れるか分からない。また、購入後、客が正しくその製品を使っているか、追跡調査するには、地域密着型の店舗で客と顔見知りになっていることが役に立つ。先に紹介したエスタさんやマーガレットさんのように、喜んで家の中に招き入れてくれる顧客がいることで、消費者調査の精度は上がる。

ケニアは東アフリカの経済を牽引している。来年開かれるアフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)の開催見通しが立ったこともあり「アフリカ進出を検討している日本企業から、ブルースプーンキオスクの店頭に自社製品を置いて、売れるかどうか実験してみたい、というお問い合わせが増えています」(広報担当の戸次弥生さん)。

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