【EUが国防費増でも潤うのは米国の防衛産業?】米国と分断深める欧州NATOの「揃わぬ足並み」。欧州にとって米国の背中はこれほど遠い

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それでも結果的には、単独開発のラファールの方が3年早く運用開始に漕ぎつけている。

もう1つの問題が、輸出の競合だ。例えばジャギュアは、開発国である英仏以外ではインド、ナイジェリア、オマーン、エクアドルの4カ国に輸出され、インドではライセンス生産も行われた。ところが英仏共同開発にも拘わらず、輸出を推進したのは英国だった。フランスは同時期に単独で開発したミラージュF1の輸出に熱心で、ジャギュアは競合機種となるためだ。

結果的にジャギュアの輸出が4カ国94機であったのに対し、ミラージュF1は10カ国に470機近くが輸出されている。

開発時点では手を組んでいても、いざ商売となると我田引水となる。

2023年3月、EUはウクライナに対し1年間で100万発の155㎜砲弾を支援することを決定した。

EUの軍隊も、平時とはいえ訓練で砲弾を消費する。ロシアの脅威が顕在化した現在では、軍隊の練度向上は急務だ。それでも危機の只中にあるウクライナへの支援が優先された。

しかしここに来て、EU域内での砲弾生産力が問題として持ち上がった。100万発を支援するといっても、EUの155㎜砲弾生産能力は、ウクライナ侵攻が始まった時点では年間60万発程度であった。足りない分は在庫から回すとしても、欧州各国も訓練は必要であるし、ロシアの脅威が高まっている中では、むしろ在庫を増やしたいぐらいだろう。

EUは2024年末までに砲弾の年間生産能力を140万発に、さらに2025年末までにはそれを200万発とする計画を表明している。

ただしロシアは2024年には、年間300万発の砲弾生産力を有していたと見られている。またウクライナ軍の前線指揮官は、2024年に入ってからはロシア軍に比べると1割強の砲弾しか供給されていないとこぼしていた。これがウクライナという鏡に映された、EUの防衛産業・武器弾薬の供給網の実態である。

「欧州防衛産業戦略」は何を目指すか

そのような状況において、EUも防衛産業基盤を強化する必要性を改めて認識し、2024年3月5日に「欧州防衛産業戦略」を発表した{※High Representative of the Union for Foreign Affairs and Security Policy,European Commission,“A new European Defence Industrial Strategy: Achieving EU readiness through a responsive and resilient European Defence Industry”(March,2024).}。

そこでの危機感は、「防衛産業の空洞化」とでも形容できるものだ。アメリカからの強い働きかけもあり、EU各国はGDPの2%水準の国防支出の達成を目標としている。その中でロシアによるウクライナ侵攻が起きたので、EU各国はそれまでにも増して防衛力の強化に乗り出した。しかしウクライナ侵攻以降、2023年6月までの1年4カ月の間に、EU加盟国が調達した防衛装備品の78%はEU域外から輸入したものであり、アメリカからの輸入だけでも63%に達した。何のことはない、EUが国防費を増やしても潤うのはアメリカの防衛産業という構図ができ上がっている。

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