【EUが国防費増でも潤うのは米国の防衛産業?】米国と分断深める欧州NATOの「揃わぬ足並み」。欧州にとって米国の背中はこれほど遠い
もっとも冷戦が始まった頃から、アメリカと欧州の経済力格差は認識されていた。NATO創設の翌年となる1950年の値で見ると、英国のGNP(国民総生産)はドル換算で373億ドル、フランスは293億ドル、イタリアが159億ドルであった。西ドイツのNATO加盟は1955年だが、1950年のGNPは205億ドルだった{※B・R・ミッチェル編『マクミラン世界歴史統計(Ⅰ) ヨーロッパ篇〈1750│1975〉』〔中村宏監訳〕(原書房、1983年)より算出}。
これに対してアメリカの1950年時点でのGNPは2848億ドルである。欧州主要4カ国が束となってもアメリカの3分の1強に過ぎない。比較のために、当時の日本のGNPはドル換算で87億ドルだった{※大川一司ほか『長期経済統計1 国民所得』(東洋経済新報社、1974年)より算出}。
すんなりいかない「標準装備品」の共同調達
軍事技術にとって、第2次大戦は文字通り「必要は発明の母」を体現したものとなった。戦争中にレーダー、コンピュータ、ジェット機、ミサイルなどの新しい装備が開発・改良され、武器は高性能化した。このことは、同時に高価格化も意味する。
戦争が終わってもソ連と対峙する冷戦が始まり、高性能・高価格の武器に対する需要は一向に減らない。こうなると、戦争で疲弊した西欧諸国がとる手立ては2つしかなかった。
まず1つは、各国がそれぞれ装備品を開発・調達するのではなく、「標準装備品」を共同調達することだ。これであれば武器の調達数・生産数が増えるので、開発費が高騰しても回収の見込みが高まる。
イタリアのフィアットG・91攻撃機は、1953年にNATO軍事委員会が提示した仕様に基づいて開発され、競争試作を勝ち抜いた。しかし同機を採用したのは当時のNATO加盟15カ国のうち、開発したイタリア以外では西ドイツとポルトガルだけだった。米英仏は自国の航空機産業育成に対する配慮から、G・91に近い性能の攻撃機を独自に開発・配備している。
特定国が開発・生産する武器を「標準」として共同調達するのは、各国の防衛産業振興の思惑が絡み、うまく行かない。総論賛成・各論反対の好例といえる。

もう1つが国際共同開発だ。この嚆矢となったのが、英仏で共同開発された攻撃機・練習機ジャギュアである(表3‐1『国際共同開発と単独開発の軍用機比較』)。英国からはBAC(現・BAEシステムズ)、フランスからはブレゲー(現・ダッソー・アビアシオン)が参加した。その後、アルファジェット攻撃機・練習機(仏独)、トーネード攻撃機・戦闘機(英独伊)、ユーロファイター戦闘機(英独伊西)が国際共同で開発された。さらに国際出資企業であるエアバスも、軍用輸送機や軍用ヘリコプターの開発・生産を行っている(※ここで「独」は、ドイツ統一前の西ドイツを指す)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら