窪田:先ほどの中国の話に戻ると、少なくとも数年前から国家レベルで「近視を減らさなければならない」という論調が広まっている。その点はとても羨ましいです。近視を減らすために有効なのは、子どもの目の成長に関わる6~12歳の時期に外で過ごす時間を増やすこと。それが唯一、エビデンスのある対策法です。中国はそれに向かってあらゆることをやっています。
例えば、これも近視対策につながると思うのですが、2021年には子どもたちに過剰な勉強をさせないように、「宿題、学習塾禁止令」が出されました。子どもがゲームをすることも規制されています。これは、子どもたちが外でのびのびと活動することを優先して、詰め込み型の教育から脱却したことを意味しています。
神保:そこまで思い切った政策をとれるのが中国ですよね。日本だったら反発も大きいでしょう。
窪田:本当ですよね。そのために受験の方法も変えています。詰め込んだ知識を問うような内容ではなく、考えるタイプの試験へ。それでも学力は低下していないんです。もちろん教員の再教育にも取り組んで、徹底的に変革しています。
神保:やると決めたら総動員でとことんまでやるのが、中国ですからね。ゼロコロナからオールコロナへの転換もそうでした。
「学習塾禁止令」は人材戦略の一環
神保:「学習塾禁止令」については、人材戦略の一環でもあると思います。今、中国で何が起こっているのかというと、猫も杓子も大学に入り、同じような人文系の人材ばかりが生まれている。しかも、その人たちが就職できていないんです。こうした現象が、ここ10年くらい続いています。
みんな受験戦争を乗り越えて一様に頭は良いんですが、似たような経験ばかりしているので、新たなものを生み出すイノベーションスキルが育成されにくい。
窪田:まさに苛烈な受験戦争の弊害ですね。