「ネジザウルス」をヒットに導いた3つの秘訣 工具界の風雲児はこうして激売れした!
あらためて1通ずつ精読してみると、アンケートハガキには実にさまざまな情報が書き込まれていました。もちろん、新しいネジザウルスの開発に直接、役立つものばかりではありません。「こんな機能があったら便利だと思う」と改善点が提案されていても、技術面で難しかったり、どう考えてもコストが合わなかったりして、現実的とは言いがたいアイデアもあります。
一方、なかには私たちが想像もしなかったご意見もあって、そうしたご意見を丁寧に見ていくと、いくつかに分類することができました。
少数意見には「驚き」がある
最も多かったのは、「グリップを握りやすくしてほしい」というご要望で、約120通。以下、形状の変更や機能の追加に関するご要望が数十通あったのですが、5番目に多かったご意見を見て、ちょっと困ってしまいました。
「トラスネジも外せるようにしてほしい」というご要望です。
トラスネジというのは、一般的なネジ(ナベネジ)よりも頭の部分が低いネジのことで、目立ちにくいため、身の回りのさまざまな場所に使われています。それだけにニーズは決して少なくないはずですが、そうしたご要望が記されていたのは、1000通のうち、わずかに7通でした。
コストが高くなっても採用すべきか、望まれない機能は省いて低価格を実現すべきか、ここは思案のしどころです。考えても考えても迷いは尽きなかったのですが、結果として、このご要望を採り入れたことが新しいネジザウルスの大ヒットにつながりました。
このとき、私がトラスネジにも対応すべきだと考えた理由――。それは、少数意見にこそ「驚き」が隠されていると思ったからです。
みなさんも商品やサービスを購入したとき、「へえ!」「すごいやん!」と感じたことはないでしょうか。機能やデザイン、味、価格などについて、自分が勝手に想像していたレベルを超えるものに接したとき、われわれは心地よい驚きを感じます。そして、驚きが大きければ大きいほど、満足感も大きい。それは、自分自身も気づいていなかった潜在ニーズが、思いがけず満たされるからではないでしょうか。
とはいえ、いまどきのお客様はそう簡単には驚いてくれません。目も耳も舌も肥えたお客様の期待を上回るのは至難の業で、お客様が何を求めているのかを考えたとき、衆目の見解が一致するようでは、そこに驚きはないと言ってよいでしょう。
その意味で、注目すべきはむしろ少数意見なのです。もっとも、少数意見もほとんどは「多くの人が望んでいないこと」であって、そのあたりを混同せずに選別するプロフェッショナルの眼力が重要です。
グリップなどを改善したうえ、従来は外すことができなかったトラスネジも外せるようになった新しいネジザウルスは、2009年春、シリーズ4代目の「ネジザウルスGT」として発売されると、私たちの予想をはるかに超える売れ行きを示しました。その年の販売数は、7か月間で約7万2000丁。すると、それまで勢いに陰りが見えていた初代から3代目までも再び盛り返し、3年後には累計販売数が100万丁を突破したのですから、やっぱりネジザウルスは飽きられていなかったんだと実感したものです。
もちろん、ネジザウルスGTのおかげで2年連続の赤字は回避することができました。
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