死んだハムスターの「小さな傷」が知らせた"犯人" 動物バラエティーやSNSでは見えてこない真実

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ほかにも、人間の口唇などに水ぶくれをつくる単純ヘルペスウイルスは、コモンマーモセットなど、中南米に生息するサルでは致命的になることがあります。このような例は枚挙に暇がありません。

それでも、複数種の動物を飼いたいという方もいらっしゃるでしょう。同じ家の中で異なる種の動物を飼うときの心構えは、次の3つに尽きます。

(1)ケージを分けるか、できれば別室で飼う(濃厚接触させない)
(2)同時にケージから出さない
(3)脱走させない(部屋を分けていても、ネコやフェレットなどはよく脱走して、同居している小動物を襲うことがあります)

とくにイヌやネコのような本来捕食者である動物と、ウサギやハムスターなど被食者となる動物を一緒に飼う場合などは、十分に配慮しなくてはなりません。

人間と動物ももちろんですが、動物と動物の間には、それらの動物の習性に応じて適度な距離感が必要です。 例えば、社会性のある動物と単独生活を好む動物を一緒に飼う場合。

イヌとネコはどちらも捕食者ですが、イヌには社会性があり、ネコは単独生活をしています。そのため、イヌとネコを一緒に飼う場合も、ネコが一人で安心できる場所を用意してあげるなどの工夫が大切になってきます。

映像で見せているのは一部だけ

テレビのバラエティー番組やYouTubeの動画では、基本的に視聴者が喜んだり癒やされたりするシーンしか放送されません。

しかし、僕の経験上、異なる種の動物たちが一緒に仲良く過ごすシーンの裏に、それよりずっと多くの“一方がケガをさせられたり、殺されてしまったりした”ケースがあると思われます。そのようなシーンを多くの人は見たがりませんから、表に出てこないだけなのです。

「友情」や「愛情」といったヒト固有の情動を、ヒトではない種にあてはめることには、本来、無理があります。

アニメの『トムとジェリー』のように、いつも仲良くじゃれ合っていたネコとゴールデンハムスターですが、その「友情」は、彼らが実際に持っているかどうかわからない「心」を、人間が自身の価値観から一方的に類推していただけにすぎません。

そもそも、ネコとネズミは生物として捕食者と被食者ですから、「仲良くじゃれ合う」という言葉も、関係の実態を正しく反映したものではないでしょうね。

ネコとハムスターにかぎらず、異なる種の動物が同じ空間で暮らすことは、危険を伴う場合があるということを、みなさんに知っていただければ幸いです。

中村 進一 獣医師、獣医病理学専門家

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なかむらしんいち / Shinichi Nakamura

1982年生まれ。大阪府出身。岡山理科大学獣医学部獣医学科講師。獣医師、博士(獣医学)、獣医病理学専門家、毒性病理学専門家。麻布大学獣医学部卒業、同大学院博士課程修了。京都市役所、株式会社栄養・病理学研究所を経て、2022年4月より現職。イカやヒトデからアフリカゾウまで、依頼があればどんな動物でも病理解剖、病理診断している。著書に『獣医病理学者が語る 動物のからだと病気』(緑書房,2022)。

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大谷 智通 サイエンスライター、書籍編集者

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おおたに ともみち / Tomomichi Ohtani

1982年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。同大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了。同博士課程中退。出版社勤務を経て2015年2月にスタジオ大四畳半を設立し、現在に至る。農学・生命科学・理科教育・食などの分野の難解な事柄をわかりやすく伝えるサイエンスライターとして活動。主に書籍の企画・執筆・編集を行っている。著書に『増補版寄生蟲図鑑 ふしぎな世界の住人たち』(講談社)、『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル)、『ウシのげっぷを退治しろ』(旬報社)など。

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