ある瞬間に、種を超えた友情のように見える振る舞いをすることもあっても、次の瞬間には致命的な事故が起こる可能性もあり、実際そのような事故は、みなさんが想像する以上に頻発しています。
代表的な事例をご紹介します。
昨日まで元気だったハムスター
あるとき、ペットとして飼われていた1歳半のゴールデンハムスターの病理解剖を依頼されました。飼い主さんは、「昨日まで元気だったのに、朝になったら死んでいました。なぜ死んでしまったのか、どうしても知りたいんです」とのこと。
寿命が2~3年と比較的短いハムスターが死んだら、たいていは「寿命」とみなされます。わざわざ病理解剖をして、正確な死因を特定しようとする飼い主さんはそう多くありません。飼い主さんは、この小さなげっ歯類を家族同然に大切にしていたのでしょう。
体長20センチにも満たない小さな遺体を慎重に解剖していくと、まず背中の皮ふの下に黄色い膿(うみ)がたまっていることに気づきました。膿は体に侵入した病原体と、それと戦った免疫細胞(好中球)の死骸が混ざったものです。
さらに内臓をすべて取り出して観察すると、脾臓(ひぞう)と肝臓が腫れていて、肺炎も見られました。何らかの病原体による感染症が起き、それが全身に広がっていた可能性が高いと考えられました。
ここで、飼い主さんに「亡くなる前、この子に何か変わったことは起きませんでしたか?」と改めて尋ねてみました。すると、「1週間ほど前に、一緒に飼っている仲のいいネコが、この子を爪で引っかきました。ケガをした様子はなかったので、今の今まで気にしていなかったのですが……」とおっしゃいます。
飼い主さんは「2匹は仲がよかった」と話しておられましたが、ここまでの病理解剖の結果とこの証言から、僕の頭の中には「不幸な事故」が起こった可能性が浮かびます。
膿がたまっていたところの皮ふを切り出し、顕微鏡で詳しく調べます。すると、修復されかかっている極小の傷跡を見つけました。さらに、膿や腫れた臓器の中からは、黄色ブドウ球菌という細菌が見つかりました。化膿した傷でよく見られる細菌です。
ネコの歯や爪にかぎらず、動物の歯や爪は雑菌だらけです。おそらく、一緒に飼われていたネコに引っかかれてできた傷から、黄色ブドウ球菌が体内に侵入して、増殖したのでしょう。
その結果、このハムスターは細菌感染症で、命を落としたのだと考えられます。