2030年代に起きる相続税で"世帯崩壊"の深刻度 23区の「5人に1人」が相続税を課されている

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1つの事例を紹介しましょう。被相続人である母親は区内の一軒家で1人暮らしをしていましたが、亡くなり、ひとりっ子の娘さんが相続することになりました。この家は土地が60坪、建物は36坪です。相続税評価額は、土地は路線価で坪あたり150万円、60坪ですので9000万円。建物は固定資産税評価額で1500万円でした。他には父親が相続していた地方の実家があり、土地と建物合わせて評価額は2600万円。預貯金は手元に500万円ほど。

多くの世帯で、相続税が課税される二次相続

相続税評価額を計算すると不動産、預貯金で1億3600万円。相続人は娘さん1人でしたので基礎控除は3600万円(3000万円+600万円×法定相続人数)です。課税評価額はちょうど1億円。娘さんが負担する相続税は1220万円。相続する預貯金では足りません。地方の実家はなかなか買い手がつかないということで、世田谷区内の実家を手放すことになりました。このような事例は実は都内でも頻々に発生しています。

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二次相続の際には多くの世帯で、相続税が課税されるケースが増えるものと予想されます。

ここまでお話ししてもまだわが家に相続税などかかるはずがないと思っている方は多いと思います。では相続が発生した世帯で実際に相続税が課税される割合はどの程度なのかを見てみましょう。

国税庁「令和4年分 相続税の申告事績の概要」によれば、当該年の死亡数は156万9000人、うち相続税が課税された被相続人数は15万858人。課税割合は9.6%です。相続発生件数の約1割が課税対象になっています。

これを首都圏に絞ってみましょう。同年の課税割合は東京都18.7%、神奈川県14.3%、千葉県10.3%、埼玉県11.2%と全国平均を上回ります。さらに東京都にメッシュをかけます。

都区部が20.1%。課税割合の多い区は高いところから順に千代田区43.8%、渋谷区36.7%、世田谷区31.6%、目黒区32.6%、文京区30.0%、杉並区29.6%です。なお島嶼部(伊豆諸島および小笠原諸島)を管理する芝税務署のデータが含まれる港区を除外していますが、港区も高い割合を示しているものと思われます。千代田区を別格としても、高級住宅地のほとんどでかなりの高確率で相続税が課税されていることがわかります。

高齢者単独世帯でこれから大量に発生する相続。そしてその多くで相続税負担を余儀なくされます。世帯崩壊の始まりです。

牧野 知弘 不動産事業プロデューサー

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まきの ともひろ / Tomohiro Makino

1959年生まれ。東京大学経済学部卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て三井不動産に勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在はオラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産プロデュース業を展開。また全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立。代表取締役を兼務。著書に『不動産の未来』『負動産地獄』『空き家問題』『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)など。

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