悪いのは私じゃない症候群 香山リカ著
1990年といま。20年間に多くのものが劣化した。とくに教育と医療が様変わりした。多数のモンスターが出現するようになり、教師は親からのクレームに怯え、医師は患者から訴えられないように「防衛医療」に専念している。
親戚や友人に教師や医師がいるなら、モンスターペアレントやモンスターペイシェントについて聞いてみるといい。たくさんの実例を挙げて詳しくモンスターたちの生態を説明してくれるだろう。
知り合いに医師や教師がいないなら、本書を読めばいい。教育現場、医療現場だけでなく、大学や企業でも多発している「悪いのは私じゃない症候群」について多数の実例が紹介され、発生の理由についても考察されている。
第1章「学校が悪い!」では、コピペの横行が取り上げられている。全国の教員を悩ませている生徒や学生の読書感想文やレポートの剽窃である。正確に言えば剽窃ではないかもしれない。本書によれば「自由に使える読書感想文」というサイトがあり、「読書感想文のパクリがばれたら……反省文の書き方教室」まで用意されている。「使っていいですよ」というサイトがあるのだ。大学生向けのコピペ用論文もたくさん存在している。そして多くの大学生が利用している。
そしてこれらの感想文や論文をコピペする生徒や学生に罪悪感がない。「私は悪くない」と考えている。こういう学生を教員はどう指導したらよいのか? 学内の「人権委員会」から「学生の人格を傷つけるような発言を慎むよう」と注意を受け、「他の学生の前でひとりを激しく叱るなど、恥をかかせるようなこともいけません」と指導される。では学生と一対一で注意すればいいのかと言えば「研究室でふたりきりで指導するのはなるべく控えるように」。打つ手がない。