トランプ後「EV一辺倒」が変化する自動車産業 より現実的な脱炭素戦略への変化が加速化

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そこで、重要となるのは、エネルギー源の多様化だ。自動車は電気でなくても脱炭素は可能である。水素(直接燃焼方式と燃料電池方式)、バイオ燃料、二酸化炭素と水素を合成して作る合成燃料などでもゼロエミッションは可能である。

これらは、「化学」と「内燃機関」という日本の強みが生かせるところであり、世界をリードすることができる。さらにこれらの燃料とハイブリッド技術を組み合わせれば、強力な脱炭素カー・ラインナップとなる。

また、エネルギーの多様化に合わせ「適地適車」という考え方が重要となる。これは、自動車はその国にあるエネルギー源に適したパワートレイン開発を行うべきであるという考え方だ。

ブラジルでは、トウモロコシからのバイオ燃料で車を走らせている。トヨタは、2023年にバイオ・ハイブリッド車の現地生産を発表し、2024年も投資拡大を発表している。

日本メーカーにチャンス到来

スズキは、インドで「牛糞燃料からの自動車」の普及を目指して動き出している。これは、まさに「適地適車」だ。

インドには牛が約2億頭おり、牛糞からメタンを取り出し車の燃料にする。同社は自社サイトで、「牛の糞尿には二酸化炭素(CO2)の28倍の温室効果を持つメタンが含まれ、大気中に放出される。このメタンの大気放出を抑制し、牛の糞尿に含まれるメタンから自動車用燃料を精製する」という。

さらにスズキは「バイオガス生産後の残りかすは有機肥料として利用でき、インド政府の有機肥料促進政策に貢献できる」と述べている。スズキは、インドの政府機関と提携し、本年から順次4つのバイオガスプラントを立ち上げる予定だ。

世界はロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー供給不足・世界同時インフレという深刻な社会問題を経て「より現実的な脱炭素戦略」へと変化してきている。すなわち、脱炭素を行うにも、エネルギーの安定供給が大前提でなければならないということだ。

そのためには、電気だけでなく多様なエネルギー源で技術イノベーションを起こすという「日本的アプローチ」が再評価されるだろう。自動車の脱炭素も「EV一辺倒」というアプローチは見直される時が来ている。トランプ新政権や欧州の政治体制の変化は、そうした流れを確実なものにしていくと期待したい。

土井 正己 クレアブ代表取締役社長、山形大学客員教授

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どい まさみ / Masami Doi

大阪外国語大学(現:大阪大学外国語学部)卒業、2013年までトヨタ自動車に勤務。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年から「クレアブ」(本部ストックホルム)で、外交関係の官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。本部の上級副社長も務める。

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