ヤギ5頭飼って驚愕「搾乳」のとんでもない苦労 『アルプスの少女ハイジ』のペーターはすごい

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(画像:『私はヤギになりたい』より)

足元に寝転んだりしたら絶対にカヨに踏みつけられて大怪我するところしか想像できない。とてもではないが真似できない。気の毒だが後ろ脚は木枠に縛って動かすことができないようにするしかなかった。

偶然の美味

だんだんとコツを摑み、乳房にかける負荷を少なめにミルクを搾ることができるようになって、カヨも乳房の張りが取れることがわかると、少しだけ大人しくなった。だいたい一度に多いときで1.2リットルくらい搾れただろうか。出の良い乳房とそうでない乳房と偏りがあり、7対3くらいの割合だった。今思えば1回目のお産のときの乳量がピークだった。

2回目のお産は終わってすぐに交配してしまったので、ミルクは半年も出さずに打ち切りとなり、お腹にできた新しい赤ちゃんに栄養が回っていたようだ。3回目も同じ。そして最後の雫は次の出産もなかったため、前脚を折り曲げてかがまないと乳首に口がとどかないくらい大きくなってもまだおっぱいを飲んでいた。

(画像:『私はヤギになりたい』より)

3回目の出産後だろうか。ヤギ舎の大家さんがシーラーと注射器を利用した乳搾り器を作ってくださった。動画サイトに載っていたそうだ。これだと乳を手で揉まなくてよくなり、カヨはとても大人しく搾らせるようになった。搾るというよりは吸うに近い。乳房をぎゅっと揉まれるのがよほど嫌だったのだろう。もっと早くこの器械に出合いたかった。

搾ったヤギミルクでまず作ったのは、リコッタチーズ。檸檬汁で固めるものだ。さっぱりしている。次にヨーグルト菌を入れて発酵させた。家の常在菌でも発酵させてみて、一度だけ成功してとても良い味のヨーグルトができた。カヨーグルトと名付けていた。このヨーグルトの水分を切ってチーズができないか挑戦したが、うまくいかなかった。

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それよりも常在菌で発酵させたけれど苦くて美味しくなかったヨーグルトを冷蔵庫でそのまま放置して水分と白い部分を分離させ、さらに年単位で放置してみたら、不味かったはずが味にまろみがでてチーズと呼んでも良い美味になってきて驚いた。偶然の産物である。

ヤギミルクは脂肪の粒子が小さく消化が容易であることから、昔は母乳の代わりに飲んで育った人も島では少なくない。今では捨てられた赤ちゃん猫を介抱したり、固形物を食べるのが難しくなってしまった老犬の介護食に重宝されているようだ。仔猫を拾った友人にミルクをあげていた時期もある。喜んで飲んだそうだ。

普通に飲むと少し癖がある気がするが、飲みにくいほどではない。さまざまなものを作ったけれど、一番美味しかったのは、プリンだった。あまりにも美味しくて何度作ったかわからない。カヨミルクがなくなってから高価な牛乳で作ってみたけれど、カヨミルクプリンの濃厚な美味しさには及ばなかった。いつか鶏を飼い卵から自前でヤギミルクプリンを作ってみたいと思っているが、その頃にはカヨはもうお婆さんになっているだろう。

内澤 旬子 文筆家、イラストレーター、精肉処理販売業

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うちざわ じゅんこ / Junko Uchizawa

1967年、神奈川県生まれ。『身体のいいなり』で第27回講談社エッセイ賞受賞。著書に『世界屠畜紀行』『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(角川文庫)、『ストーカーとの七〇〇日戦争』(文春文庫)、『内澤旬子の島へんろの記』(光文社)、『カヨと私』(本の雑誌社)など多数。2014年に小豆島に移住し、現在は、ヤギのカヨ、茶太郎、銀角、玉太郎とイノシシのゴン子、ネコの寅雄とともに暮らす。

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