松屋「うっかり千円超え」を続出させる巧みな戦略 シュクメルリの大ヒットから、値付けの妙を考える

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シュクメルリとはジョージアの伝統料理で、松屋はこれを2019年に一部店舗の限定メニューとして販売。たちまちネット上を中心に話題となり、反響の大きさから全国販売に発展。さらに「松屋復刻メニュー総選挙」で2度も1位に選ばれ再登場する人気ぶりだ。

松屋が出すまで日本でシュクメルリを知っていたという人は、ほとんどいなかっただろう。こうした「誰も知らない料理」は単価を引き上げやすい。

マーケティングの分野には、「内的参照価格」という概念がある。詳細は『買い物の科学 消費者行動と広告をめぐる心理学』(越智啓太著/2024年・実務教育出版)に譲るが、簡単に説明すると、人は「この商品はだいたいこれくらいの値段」という共通の認識を持っており、その商品がその値段よりも高いか安いかで購入を決めるというものだ。

例えば牛丼であれば1杯450円くらいのイメージがあるとしたら、300円の牛丼なら「安いな」と思うし、600円なら「高い」と思う。

一方で、シュクメルリの「内的参照価格」を持っている人はほとんどいない。そのため、多少高くても違和感を持たれず、松屋は自分たちに有利な値付けを行うことができるのだ。

実際に「シュクメルリ鍋定食」は2019年のテスト発売時は790円(店舗による)、直近の2024年販売時は930円と、「牛めし 並盛」が430円の松屋にしては高額。にもかかわらずヒットした。

さらに松屋が巧いのは、シュクメルリはニンニクやクリーム、チーズを使った極めて日本人好みの味であることだ。聞いたことのない未知の料理に見せかけて、実際には日本人になじみ深い味わいにできている。だからこそ多少高くても受け入れられた。

これに味を占めた(?)松屋は、ペルーの「ロモサルタード」やマレーシアの「ルンダン」、セネガルの「マフェ」など異国料理を次々に投入。これらの価格もおおよそ800~900円で、やはり松屋にしては高額。しかし、日本にはそうした異国料理の「内的参照価格」を持っている人はほとんどいない。

このように松屋は時折、販売側が価格決定権の強い高額商品を投入し、じわじわと全体の単価アップを図っている。

吉野家やすき家の高額商品は松屋と何が違う?

もちろん競合の吉野家やすき家も高額商品を織り交ぜ、単価アップを図っている。

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