陸自のAH-64Dは短距離対空ミサイル、スティンガーを搭載するが、AH-1Sも攻撃ヘリと行動をともにする国産偵察ヘリ、OH-1もスティンガーを使用しない。AH-64D専用であり、当然調達コストは跳ね上がる。しかも陸自のAH-64Dはネットワーク機能が意図的に落とされており、米軍との共同作戦も不可能だ。そもそもネットワーク機能こそAH-64Dの最大の売りである。それをわざわざ外し、しかも米軍の何倍も高いコストで調達していたのだ。
陸自のAH-64Dは1個飛行隊と教育所要であるが、現在、部隊で稼働している機体はわずか3~4機に過ぎないという。これでは事実上、壊滅状態であり、部隊としてまともな作戦行動は取れない。
その理由のひとつは整備費、部品代の不足である。しかも機体が少ないために、近い将来ブロックIIのコンポーネントの調達ができなくなる。僅か13機ならばボーイングも部品の保証はコスト的にできないだろう。米軍はもとより、韓国軍、台湾軍はブロックIIIの導入を決め、すでにAH-64を導入していた英軍もブロックIIIの機体に移行を決定している。仮に「ブロックII」とし維持が可能であっても旧式化は否めない。
このまま放置すれば陸自のAH-64Dは近い将来、部品枯渇で自滅する運命にある。
部品と整備費不足のAH-1S
それではAH-1Sはどうだろうか。陸自は89機のAH-Sを調達したが、現在はこれまた部品と整備費の不足で稼働率が悲しいほど落ちている。たとえば北部方面隊で基地祭などがあって、AH-1Sの編隊飛行を行う時には、北部方面隊だけでは稼働機が確保できず、ほかの方面隊から借りてくる有様だ。現場では機体から取り外したパーツを、別の機体に使用するいわゆる「共食い整備」が日常化しているとも聞く。恐らくはすべての稼働するAH-1Sを集めても2個飛行隊にもならないだろう。
そもそもAH-1Sの調達からしてデタラメだった。AH-1Sは、富士重工が1982年からライセンス生産を開始し2000年まで18年かかって、89機が生産された。初期の2機は1977年と1978年に1機ずつ輸入されており、調達に約四半世紀を費やしたことになる。
だが「本家」の米陸軍ではすでに1984年から、AH-1Sの後継機であるAH-64Dの調達が始まり、1997年には調達を終えている。にもかかわらず、わが国では米国がはるか前に調達をやめた旧式攻撃ヘリを延々と生産してきたのだ。その平均調達価格は約25億円で、米国の約3倍、特に末期には調達数が減り、単価は48億円、米国の6倍ほどまでに高騰した。旧式の軽自動車に最新式のベンツの値段を払ってきたようなものである。
AH-1Sのライセンス生産に先立って、もし国会で「アメリカでは2年後にAH-1Sに替わる新型のアパッチの生産を開始します。しかも1997年までにはそのアパッチの生産も終わります。わが防衛庁・陸上自衛隊では、旧式化したAH-1Sを今後18年ほどの年月をかけて調達します。米国での調達価格は8億円ぐらいですが、わが国では最大48億円ほどになります」と説明されていたら、賛成する議員がどのくらいいただろうか。
AH-1Sはすでに能力の面でも旧式化が著しい。まず速度が遅く、大型の輸送ヘリである、CH-47などにも随伴できない。主要武装である対戦車ミサイルは旧式のTOWであり、これは有線誘導で、空中に静止して目標に命中するまで延々と誘導を続ける必要がある。この時に敵の対空砲火のいい的になる。最近の対戦車ミサイルAH-64が搭載するヘルファイアのように打ちっぱなしか、あるいは終末誘導をレーザーで行う、レーザー誘導のセミアクティブ方式が主流である。これであれば発射した機体は素早く回避行動がとれ、誘導は僚機か、または地上からのレーザー照射で行うことが可能で、それだけ攻撃ヘリの生存性は高くなる。つまりAH-1Sは骨董品であり戦場での生存性は極めて低い。
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