この年(2011年)は言うまでもなく東日本大震災があった年で、[オトコ編]7位には震災後の日本社会の葛藤を記録した『あの日からのマンガ』(しりあがり寿)がランクインしている。圧倒的な自然の脅威と原発事故を目の当たりにし、逆に作家たちの意識が身の回りの小さな世界に向かった――というのはうがちすぎか。
以後、もちろん『約束のネバーランド』『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』など、ジャンプ系の大ヒット作が1位を獲得した年もあるが、どちらかというと大作よりも小品、その年の瞬間最大風速的な話題作が選ばれるようになったのは事実である。そして、もうひとつの傾向として、新人あるいはそれに近い作家の初単行本や短編集が上位に入るようにもなってきた。
たとえば、穂積『式の前日』(2013年版[オンナ編]2位)、佐野菜見『坂本ですが?』(2014年版[オトコ編]2位)、大今良時『聲の形』(2015年版[オトコ編]1位)、阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』(2015年版[オンナ編]1位)、小西明日翔『春の呪い』(2017年版[オンナ編]2位)、和山やま『夢中さ、きみに。』(2020年版[オンナ編]2位)、たらちねジョン『海が走るエンドロール』(2022年版[オンナ編]1位)、モクモクれん『光が死んだ夏』(2023年版[オトコ編]1位)など。
昨年(2024年版)に至っては、ベスト3のうち[オトコ編]2位の荒川弘『黄泉のツガイ』以外、ほぼ新人の初単行本で、[オトコ編]3位の坂上暁仁『神田ごくら町職人ばなし』、[オンナ編]1位の大白小蟹『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』はいずれも単巻もののマニアックな作品だ。
自分だけの“推し作品”に投票する傾向が強まる
『このマンガがすごい!』のアンケートには筆者も初回からずっと参加しているが、年間1万点を超えるマンガの中から5作を選ぶのは容易ではない。個人的には毎年何らかのテーマを設けており、今年は[オトコ編]で「バディもの」の5作を選んだ。ほかのアンケート参加者も、誰もが知る人気作はあえて避けて、自分だけの“推し作品”に投票する傾向が強まっているのではないか。そうでなければ、今年9月に完結したメガヒット作『呪術廻戦』(芥見下々)がベストテンに入っていないことの説明がつかない。
また、紙の雑誌ではなくウェブ媒体の掲載作が増えるにつれ、男性向け、女性向けとはっきり分けられないジェンダーレスな作品が増えていることもあり、2023年版からは[オトコ編][オンナ編]の区分けも見直され、より時代に対応したものとなった。
こうしたマンガランキング本の存在意義は、順位そのものよりも、知らなかった作品と出会う機会を提供することにある。そういう意味では、必ずしもメジャーではない作品、埋もれてしまいがちな単巻ものや短編集にスポットが当たる現在の状況は、むしろ健全と言えるだろう。ベストテン作品は、いずれもハズレなく面白い。ランキング全体は誌面でご確認いただくとして、気になる作品があったら、ぜひ手に取ってみてほしい。
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