つまり、『このマンガがすごい!』が元祖ではない。1年早く始まった『このマンガを読め!』は雑誌「フリースタイル」の年末恒例特集として継続している。しかし、現在の一般読者の認知度や市場への影響力においては、『このマンガがすごい!』と2008年創設の「マンガ大賞」が双璧と言えよう。
2005年から20年の間に、日本社会は大きく変化した。奇しくも2005年は「小泉劇場」と呼ばれた衆院選で自民党が圧勝し、郵政民営化法が成立した年だ。JR福知山線脱線事故、ライブドアによるメディア買収騒動、マンションの耐震偽装問題に揺れ、YouTubeがスタートした年でもある。いわば、今の日本社会が抱える病巣の発火点となった年と言っても過言ではない。そこから非正規雇用が増え、賃金は上がらず、円安が進み、陰謀論がはびこる。国民生活は総じて不安定になった。
ひとつの転換点は、2011年末発売の2012年版
そうした社会状況の変遷を『このマンガがすごい!』のランキングから読み取れるかというと、正直難しい。が、歴代のベストテンを眺めていて気がついたのは、2011年末発売の2012年版がひとつの転換点になっているのではないか、ということだ。
2011年版までは、ベテランから中堅作家による比較的メジャーな作品が主体だった。たとえばシリーズ第1弾となった『このマンガがすごい!2006』のベストテンは、次のようなラインナップだ。
1位 PLUTO/浦沢直樹(原案:手塚治虫)
2位 DEATH NOTE/作:大場つぐみ・画/小畑健
3位 失踪日記/吾妻ひでお
4位 働きマン/安野モヨコ
5位 鋼の錬金術師/荒川弘
6位 ホムンクルス/山本英夫
7位 もやしもん/石川雅之
7位(同票)おおきく振りかぶって/ひぐちアサ
9位 キーチ!!/新井英樹
9位(同票)団地ともお/小田扉
1位 ハチミツとクローバー/羽海野チカ
2位 のだめカンタービレ/二ノ宮知子
3位 NANA/矢沢あい
4位 バルバラ異界/萩尾望都
5位 プライド/一条ゆかり
6位 大奥/よしながふみ
7位 フラワー・オブ・ライフ/よしながふみ
8位 きせかえユカちゃん/東村アキコ
9位 シュガシュガルーン/安野モヨコ
10位 舞姫 テレプシコーラ/山岸凉子
多少なりともマンガに興味のある人なら(20年前の話なので年齢によるとは思うが)、ちゃんと読んだことはなくてもタイトルや作者名には見覚えある作品が多いのではないか。翌年以降も、それなりにメジャー感のある“構えの大きい作品”が多く選ばれている。
ところが、2012年版では[オトコ編]『ブラック・ジャック創作秘話』(作:宮﨑克・画:吉本浩二)、[オンナ編]『花のズボラ飯』(作:久住昌之・画:水沢悦子)が1位になった。前者は手塚治虫の仕事ぶりを関係者への取材をもとに綴ったドキュメンタリーで、後者は夫が単身赴任中の主婦のズボラで楽しい食卓を描いたグルメものだ。どちらも良作には違いないが、ややマニアックであり、描かれている世界は小さい。
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