台湾総統選挙、国民党・馬総統が予想外の大差で再選、対中関係はさらに深化へ

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選挙戦は当初、現職有利でスタートしたものの、2011年12月には行って民進党も巻き返し、接戦ムードで進行した。選挙前、国民党側は50万票、民進党は20万票の差をつけて当選すると見通していたが、想像以上に投票差が広がった。

それは、「不満と不安との選択」において、台湾国民が先を見通せない不安をまず取り除こうとした、と言えるだろう。不満とは現職の政治であり、不安とは民進党の政策のことである。

今回の最大の争点は、中国との関係をどうするか、であった。これは1992年に中台当局との対話で出されたとする「92コンセンサス」をめぐる対応だった。これは、台湾にとって中国とは中華民国、中国にとっては中華人民共和国だが、「台湾も含めて中国はひとつ」という点で違いはない、だから政治問題化を避けて交流を進めようという合意のことだ。1992年に中台交渉関係者が口頭で交わしたとされる。国民党はこの合意を重視しているが、民進党は台湾を中国とは別の国とする立場のため、受け入れていない。

国民党はこのコンセンサスを打ち出すことで、これまで経済・文化的な交流を進めてきた。また、前の陳水扁政権が中国との対立を繰り返した反動もあった。結果、多くの台湾企業が大陸に進出、直行便の開設などで大陸からの観光客も資本を受け入れることになり、その集大成のひとつが、先に述べたECFAだった。

一方の民進党は、92コンセンサスを否定したうえで、新たな中国とのビジョンを打ち出せたかというと、説得力あるものを有権者に示したとはいえない。「大陸とは違う」という台湾ナショナリズムは、台湾住民の多くが共有しているものの、実際の生活のうえでは、民進党よりも国民党のほうがよりわかりやすく、不安が少なかったということだ。

今後、馬英九総統は中国との経済協力を深化させ、政治対話にまで踏み込んでいく可能性が指摘されている。一方で、日本との経済協力の拡大にも意欲的だ。昨年、日台の投資協定を締結すると同時に、日本企業の台湾誘致にも熱心だ。ただ、中台の距離は確実に近くなるなか、中国との距離感をどの程度保つか、また中国との経済交流が進んだのはいいが、果実は大企業のみ、という一般住民の不満もかなり高い。微妙な距離感を取ることに、今後の馬英九総統は苦労するのは間違いない。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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