あの「セロテープ」が価格競争から脱却できたワケ 「座って商談をする時間ももらえなかった」

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この取り組みは、地球環境にやさしい天然素材が主原料という『セロテープ』の最大の特徴を活かす「Small Action For The Future:未来のための小さな行動」(SAFF)というプロジェクトでした。結果的にこの取り組みが、これまでの商談のありようや市場シェアの低下といった負の流れを一転させることになります。

「価格・安さ」から「価値」に

まず、透明テープを大量に消費するデパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストアやドラッグストア、ホームセンター、各種専門店など流通業で、『セロテープ』を使っている企業、あるいはOPPテープから『セロテープ』に切り替えてくれた企業のロゴを、新聞の全面広告に掲載することにしました。

この広告は、商品PRを目的としたものではありません。新聞広告に掲載された企業は、「コスト高になるにもかかわらず、地球環境にやさしい『セロテープ』を使ってくれる企業」で、「ニチバンのSAFFの取り組みに賛同して、未来のために小さいけれど貴重なアクションを起こしてくれている企業」であると位置づけ、新聞広告の中で紹介したのです。

普通なら、ある企業や店舗がどんな透明テープを使っているかなど関心もなく、新聞広告に載せる意味などあるのか、と考えるでしょう。

しかし、『セロテープ』を導入することで未来のために小さなアクションを起こす企業として紹介されれば、世の中の注目度や関心度が高まり、企業イメージがアップするなどメリットが生まれます。興味をもってくれる企業も少なくないはず――、そんなニチバンの狙いは見事に当たりました。

2020年9月23日の流通向け専門紙「日経MJ」に掲載されたニチバンの全面広告には、53社5自治体の賛同のロゴが連なることになったのです。

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相手企業の担当者の応対の変化は、「商品の選択基準の転換」です。

これまで透明テープを単なる「モノ、ビジネスの対象物」と見ていた購買や調達の担当者の選択基準は、「価格」でした。つまり、「価格・安さ」を買っていたのです。

しかし、OPPテープから『セロテープ』に切り替えたことは、「未来への行動、SAFFへの賛同」を買ったということができます。

ここで、相手企業の商品選択基準が「価格」から「未来への行動」「賛同」に転換しました。と同時に、『セロテープ』の最大の特徴である「天然素材が主原料」が、単なる商品の一特性ではなく、価格差を超える「付加価値」になったのです。

深井 賢一 リブランディングコンサルタント

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ふかい けんいち / Kenichi Fukai

事業コンサルタント、株式会社YRK and常務取締役東京代表、株式会社ウェーブ取締役。1989年4月 株式会社ヤラカス舘(現・株式会社YRK and)入社。リブランディングコンサルタントとして、メーカーのカテゴリーマネジメントやストアマーケティング、スーパーやドラッグストアなどの売場開発などを得意とする。 2017年より、ソーシャルプロダクツのマーケットプレイスを運営する株式会社SoooooS.カンパニー取締役。2019年より一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会事務局長として、ソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、企業によるSDGsの本業化、サステナブルブランディングの導入に向けた、セミナー、研修、ワークショップ、コンサルティングに取り組んでいる。

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