もはやオオカミ少年化している「円安メリット」 円安効果の過大評価がポピュリズム化を招く

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「円安⇒企業の国内回帰⇒さらなる円安⇒輸出増」という「長期のJカーブ効果」が発生するためには、日本企業の国内回帰が進むことが重要だが、この兆候はまだ得られていない。

日本企業の「海外設備投資比率」は2023年度の実績値が19.5%となり、2022年度の18.4%から上昇した。

「海外設備投資比率」はドル円相場に対して約3年遅れで推移してきたことから、2023年度の実績値はまだ途中経過に過ぎないが、「長期のJカーブ効果」が期待できる動きにはなっていない。

デジタル赤字を生かす「潜在的な成長分野」はあるのか

8月に公表された「令和6年度 年次経済財政報告」(経済財政白書)では、以下のように整理された。

デジタル分野等の赤字は、比較優位に基づく国際分業の考え方に基づけば、必ずしも問題というわけではなく、例えば、クラウドサービス利用が拡大していることは、質の高い海外のサービスを活用して、企業のDXが進んでいることの裏返しとも言える。
デジタル赤字を縮小すること自体が目的ではなく、コンテンツ産業など我が国の潜在的な成長分野において、稼ぐ力を強化する取組を進めることにより、結果として、関連サービス分野が成長していくということが重要であろう。

中長期的な成長につなげられるのであれば、デジタル分野を含めて貿易・サービスの短期的な赤字(とそれによる円安圧力)は問題ない――という楽観的な指摘である。比較優位の考え方からは理にかなった指摘なのだが、現状では妄想の域を出ない「我が国の潜在的な成長分野」に対して過度な期待をかけている可能性はないだろうか。

少なくとも現状では楽観的な視点で「Jカーブ効果」を待っている間に家計が疲弊している。その結果、政治がポピュリズム化し、所得減税などのバラマキ政策に突き進んでいる。

産業政策の議論は置き去りになっており、気がついたら成長産業をサポートする財政的余力がなかった、という展開に向かっているように思われる。

このように考えると、最近の政治や財政の問題の根本は、円安が経済に与える影響を過大評価したことにある、と言えそうである。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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