うつで働けなくなり知った「ボードゲームの魅力」 ボードゲームは個人の属性も能力差も乗り越える

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小野 確かにSNSなどのオンラインでは、むしろプロフィール欄に自分の属性を全部書く「カミングアウト」の方が盛んですね。それを目印にして、似た属性の人どうしでつながりたいという欲求がある。もちろん「趣味:ボードゲーム」と書いておくからこそ見つけてもらえて、ネットで知りあったメンバーでゲーム会ができるといったよさもありますが。

與那覇 ええ。そうしたメリットは前提とした上でですが、コロナ禍でのオンラインへの依存もあって、ぼくはむしろ「過剰カミングアウト社会」の副作用の方が気になっているんです。

SNSで自分は「うつ」だとカミングアウトすれば、対面なしでもうつの知りあいを増やせるかもしれない。でも、うつの症状や程度って本来、人それぞれでしょう? ところがオンラインだとつい用語が独り歩きして、「うつの人はすべてこうだ・こうあるべき」といった、本人の顔を見ないままでのおかしな相場観が作られがちです。

結果として、外食の写真をアップした人が「うつなら、家で寝ていた方が」のように言われたり、逆に当事者を勝手に代弁して「今の発言はうつ差別です。みなさん叩きましょう!」と煽る人が出てきたり。近日顕著なのはLGBTの問題で、日本では注目が広がる時期がコロナ禍と重なったために、同じ構図でこじれてしまった印象があります。

小野 相手が何者かわからないけれど、むしろわからないからこそ、誰であれ現に自分の目の前にいるからという理由で気を遣う。そうした「丸腰どうし」で向きあう対面の長所は、なかなかオンラインに持っていきにくいのでしょうね。

対等な感覚の心地よさ

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與那覇 この点でいいなぁと思ったのは、仮に自己紹介を禁止しても、対面の場合は「性別」って伏せにくいですよね。だけどボードゲームって意外なほど、性別に囚われない。

芸術作品や料理の場合だと、人ってつい「女性らしい繊細さが……」のように論評しがちじゃないですか。でも女性と一緒にゲームをプレイして「いまの一手は『女性らしい』」などという感想は、聞いたことがありません。内心で失言を抑えるのとも違って、そもそも言おうと思わない。

小野 対面していることの現前性さえあれば、プレイヤーの属性はリセットできるし、かつゲームの間は「共通のルール」に全員が従いますから、プレイ中は相手も自分も「同じだ」という感覚が強くなるのでしょうね。だから相手は「この属性っぽい」といった先入観が、自然に緩和される。

そうした対等な感覚の心地よさは、ゲームをプレイしている間だけのものかもしれません。しかしそれを一度でも「味わったことがある」なら、ゲーム以外の場所での人との接し方も変わっていくのではと思うんですよ。

與那覇 潤 評論家

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よなは じゅん / Jun Yonaha

1979年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学者時代の専門は日本近現代史。地方公立大学准教授として教鞭をとった後、双極性障害にともなう重度のうつにより退職。2018年に自身の病気と離職の体験をつづった『知性は死なない』が話題となる。著書に『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』『歴史なき時代に』『平成史』ほか多数。2020年、『心を病んだらいけないの?』(斎藤環氏との共著)で第19回小林秀雄賞受賞。

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小野 卓也 ボードゲームジャーナリスト

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おの たくや / Takuya Ono

1973年生まれ。96年からボードゲーム情報サイトを運営し、最新情報を発信する傍ら記事執筆やルール翻訳も手掛ける。訳書に『ゲームメカニクス大全』等。東京大学大学院博士課程満期退学。文学博士。寺院住職。

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