教育現場で広がるボードゲーム、「目的設定」せずに負けも失敗も楽しんで 「熟練者のみでの勝利」より満たされるものは

目的を設定せずに「遊びが持つ本来の力」を生かそう
「ボードゲームは純粋に楽しいものだし、あらゆるバリエーションがあるので飽きることもない。いいところはたくさんありますが、僕がメンタルの回復に役立ったと感じるのは、『他者同士が自然と気遣い合うようになる』という点です」

1979年神奈川県生まれ。評論家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。歴史学者時代の専門は日本近現代史。准教授を務めた公立大学を双極性障害に伴ううつにより退職。講義録『中国化する日本』(文藝春秋)、近著『ボードゲームで社会が変わる』(小野卓也氏と共著/河出書房新社)など著書多数。2020年、『心を病んだらいけないの?』(斎藤環氏と共著/新潮社)で第19回小林秀雄賞受賞
(写真:與那覇氏提供)
評論家の與那覇潤氏は、2015年から2017年までリワークデイケアに通った。そこにはさまざまな人が集まっており、ゲームのメンバーもそのときによって異なっていた。診察等のために途中で抜けたり交代したりする人もいて、ルールをよく知っている人とまったくわからない人が交ざってプレイしていた。初心者は放っておくと大敗するため、自ずと周囲がフォローすることになる。この積み重ねが、與那覇氏の心にじわじわと効いた。
「うつ状態の僕は、『ほとんどの人間は信用できない』という精神状態に陥っていました。でもゲームをしていると、たまたまそこで同席しただけの人がすごく優しくしてくれるわけです。ルールを教えてくれるのはもちろん、自分が不利になっても手助けしてくれることも珍しくない。『あれ、人間って意外に信用できるぜ』と思えたことが大きかったですね」
ここ数年、ボードゲームは教育の場でも急速に広まった。学校図書室に複数のゲームがあったり、子ども自身の持ち込みも許可されていたり。図書館やフリースクールでの導入事例も増えているし、與那覇氏も学校関係者からゲームについての助言を請われることもある。その流れ自体は歓迎しているが、一つ気になることがあると言う。