中高生の4人に1人がネット依存?17歳の35%が7時間以上利用
中高生の4人に1人がネット依存と見られる──そんな衝撃的な調査結果が明らかになったのは2023年のこと。調査を行ったのは、公立中学校で20年間教員を務め、現在は子どもとインターネットの関わりについて研究を行う兵庫県立大学教授の竹内和雄氏だ。アメリカの心理学者、キンバリー・ヤング博士が開発したスクリーニングテストを使用して11都府県の小中高生約17万8000人を対象に調査したところ、ネット依存が疑われる割合は、小学生は16.2%、中学生は24.1%、高校生は26.9%に上ったという。
これ以前に厚生労働省の研究調査班が同様の尺度を用いて行った全国調査では、ネット依存と疑われる中高生は2012年度調査では52万人(中学生6.0%、高校生9.4%)、2017年度調査では93万人(中学生12.4%、高校生16.0%)へと倍増していた。2023年の竹内氏の調査は条件が異なるので単純な比較はできないが、5年を経て子どもたちのネット依存傾向がさらに高まった可能性がうかがえる。その背景を竹内氏はこう解説する。
「最も大きな要因として考えられるのはコロナ禍です。学校が休みになっても親御さんは仕事などでずっと子どもと一緒に過ごせるわけではありません。そのため学校に行けず時間を持て余し、ネットを長時間見る習慣がついてしまった子が多かったのでしょう。一度身に付いたネットの視聴習慣は、自粛期間が終わっても変わりませんでした」
ネットの視聴時間が長いことは、こども家庭庁の「令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」にも表れている。ネットの平均利用時間(平日1日当たり)は、1歳ですでに約1時間42分、年齢とともに増加傾向となっており、17歳では約6時間34分にも上る。17歳だけで見ると7時間以上が35.3%にも上り、4時間未満は3割にも満たない。

子どもの“逃げ場”になる「ネットの仕組み」の数々
しかしなぜ、子どもたちはネットに夢中になるのか。竹内氏は次のように説明する。

兵庫県立大学環境人間学部教授(教育学博士)
公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中小学校兼務)。寝屋川市教委指導主事を経て2012年より兵庫県立大学環境人間学部准教授、2023年より現職。生徒指導を専門とし、いじめ、不登校、ネット問題、生徒会活動等を研究している。文部科学省有識者会議座長など、子どもとネット問題についての委員を歴任。生徒指導提要(改訂版)執筆協力者。2014年ウィーン大学客員研究員。『10代と考える「スマホ」ネット・ゲームとかしこくつきあう』(岩波書店)などの著書がある
(写真:本人提供)
「ネットはアルゴリズムによってその人が関心を持つ情報が次々と表示される仕組みになっているので好きなものだけ見られるし、気の合う仲間とだけ話せる環境が作られやすい。いわゆるエコーチェンバーやフィルターバブルの中で、親の小言も宿題のことも忘れられるので、格好の“逃げ場”になっているのです。また、15秒ほどの動画が次々と流れてくるアプリがありますよね。ラットを使った実験でも、快刺激を一気に与えるより少しずつ与えたほうが渇望状態になって依存になりやすいことがわかっていますが、同様に短い動画の連続的な閲覧も依存につながりやすいのです」
とくに男子は中学生にもなると性的な関心が高まるが、ネットには性的な情報もあふれているので耽溺しやすいという。
「性的な動画を見続けると強い衝動となり、願望の処理が難しくなることがあります。私が支援に入ったケースでは、子どもが盗撮画像を集めたサイトを見つけて夢中になり、実際に盗撮してしまったことがありました」
大人と子どもの関係性の変化も大きいと竹内氏は指摘する。
「今は、昔のように親や先生が子どもに対して『ダメなものはダメ』と厳しく指導することが難しい時代です。子どもはネットを通じていろいろな情報に触れているので、大人の言うことを聞かない子も増えました。そうした指導の難しさも、ネット依存を助長していると思います」
各国も試行錯誤、法律も必要だが最後は「親子の戦い」
以前は学校でもネットを「見せない・使わせない」ことで子どもを守ろうとしていたが、GIGAスクール構想の下で子どもたちに1人1台端末が配布され、今年2月にはデジタル教科書も正式な教科書として扱う方針が示された。
一方で、日本とは違った選択をする国も現れている。ICT先進国のスウェーデンやフィンランドのリーヒマキでは紙の教科書を推進し始め、オーストラリアでは16歳未満のSNS利用を禁止する法案が可決され、日本でも話題になった。
こうした世界の動きをどう見るべきか。竹内氏は、「日本だけでなく世界各国も試行錯誤しているということだ」と話す。
「オーストラリアだけでなく、韓国でも未成年のSNSを制限する法案が出ています。日本でも半数くらいの子どもたちは『自分ではやめられないから大人に決めてもらったほうがいい』と言います。しかし、いくら法律で規制しても、年齢を偽ってアカウントを作るなど、抜け道を見つける子は出てきます。法律も必要ですが、それだけではうまくいきません。ネットに一切触れさせないということが難しい時代である以上、結局最後は親と子どもの戦いになるのです」
つまり、親と子どもがネットとの付き合い方について話し合い、ルールを作っていくことが重要だという。とはいえ、「それはとっくにやっているし、ルールを作っても子どもが守らない」と嘆く保護者も多いのではないだろうか。
「中学生までが勝負」、夢と現実のギャップに目を向けさせる
ネット依存を防ぐためには、子どもが高校生になる前に親子で話し合いを重ね、子ども自身がルールメイキングできるよう促す必要があると竹内氏は言う。
兵庫県が2019年に行った「ケータイ・スマホアンケート」及び 「インターネット夢中度調査」の調査結果では、小中学校までは親とルールについて話し合いをしている子はネット依存傾向が低く、高校生になると、親との話し合いがあってもなくてもネット依存傾向は変わらなかった。

「小学校低学年であれば親御さんがある程度コントロールできますが、それ以降は抜け道を見つけるようになり、高校生にもなると話し合いは効果がないということ。中学生までが勝負だと思って、親と子が『スマホは1時間までね』『いや、2時間にしてほしい』『間をとって1時間半はどうか』とやり取りを重ね、折り合いをつける。そして、ルールとそれを破った時のペナルティを子ども自身に決めさせるのです」
子どもの言い分はすべて聞いて否定せず、親はさまざまなエビデンスを示して心配なことを伝え、「なぜやりすぎてはいけないか」を対等な形で子どもに腹落ちさせる必要があるという。
「ルールはそのご家庭やお子さんによって異なりますが、『将来どうなりたいか』と投げかけてみるとルール作りがしやすいと思います。夢や行きたい学校、『なりたい自分像』と現実とのギャップにまず目を向けさせ、それを埋めるためにはネットとどう付き合えばいいかを考え、ルールを作るよう促すとよいでしょう。ネット問題の答えはネット上にはありませんから、リアルで親子が一緒に考えていくことが重要になります」
ルール運用やフィルタリング導入のポイントは?
しかし、子ども自身がルールを作ったとしても、つねに守られるとは限らない。むしろ、「ルールを破ってばかり」という家庭も多いのではないか。
「大切なのは、子どもが自分で決めた目標を守れた時に親が褒めること。『週に3回しかできなかった』ではなく、『週に3回もできたね』と褒めてあげるのです。いかに親が自分の味方であることを子どもに感じさせ、根気よく話し合いを続けていくかが勝負になります」
しかし、親がブレないことも重要だと竹内氏は話す。
「例えば、子どもが泣き叫んだからといって『今日だけね』と許してしまうと子どもはルールを守らなくなってしまいます。また、お母さんはネットを見る時間を守らせようとしているのに、お父さんが『別にいいんじゃないか』と言って阻害してしまうなど夫婦でブレがあるのもいけません。子どものネット問題のカギを握るのは親御さんです。面と向かって話すのが難しい時はドライブしたり、釣りをしたり、隣に座って何かしながら話すのもよいでしょう」
過剰なネット接続や不適切な情報へのアクセスを防ぐ手段としては、フィルタリングがある。その際、「フィルタリングを子どもが納得して受け入れること」「強力なフィルタリングを使うこと」という2つがポイントになるという。
「親のスマホを使わせるより、親の管理下でその子専用のスマホやタブレット端末を持たせるほうがフィルタリングはかけやすいですね。キャリアのフィルタリングは解除方法を見つける子も多いので、有料でも強力なフィルタリングを使うほうがいいでしょう。ただし、突然フィルタリングをかけると子どもは反発します。できればスマホを購入する際に『フィルタリングをかけるならスマホを買う』という条件を提示しておけば、お子さんも納得しやすいと思います」
リアルが楽しければ、子どもはネットにハマらない
ネット問題は、子どもの長距離走を親が伴走するような息の長い取り組みとも言えそうだが、竹内氏によれば、子どもが自然とネットから離れるケースもあるという。
「外遊びや楽器、スポーツなど、ネット以外で面白いと思えるものが見つかると、ネットと距離ができていきます。リアルで楽しいことや誇れるものがあれば、子どもはネットにハマらないのです」
しかし、今は昔と違って外遊びの習慣がない子も多く、熱中できるものがない子は「とりあえず家でゲームをするか」となってしまいがちだ。そこで竹内氏らが取り組んでいるのが、自然に囲まれた環境でネット利用について子ども自身が考える「オフラインキャンプ」だという。2泊3日または4泊5日の日程で、川遊びやキャンプファイヤーなど、さまざまな野外遊びを体験する。
「参加者の中には1日20時間くらいスマホを見ていた子もいるのですが、リアルの遊びを体験するうちに、『ネットより面白い』となるんですよ」
オフラインキャンプでは、毎日1時間だけスマホに触れてよい時間が設けられる。なぜ、完全なデジタルデトックスを行わないのだろうか。
「完全に触らないようにすると、キャンプ終了後に揺り戻しが来るためです。『1日1時間だけ』とすると、2日目には半分くらいの子どもがスマホを触らなくなりますね。リアルな外遊びができ、そこで仲間が作れるというのはとても大事なことなのです」
これから心配なのは、部活の地域移行で受け皿がなかった場合、時間を持て余す子どもが出てくることだという。
「親御さんたちは、子どもの時間の過ごし方というものを今以上にしっかりと考えていく必要があるでしょう。また、ネット依存傾向がある子は、自分と保護者とのルールよりも、学校や友達とのルールは守りやすいという調査結果(下図参照)もあります。ネット依存対策には、学校でのルールメイキングも効果的だと言えそうです」

親がカギを握る問題とはいえ、教育現場でもICT機器の活用を推進している現状などを踏まえれば、学校や教員にとっても「子どもとネットの問題」とは無関係ではいられない。ネットとどう関わっていくべきか、大人たちは考え続けていく必要があるだろう。
(文:吉田渓、注記のない写真:C-geo/PIXTA)