高校生にも広がる「オンラインカジノ」
依存症とは、脳の状態が変化して欲求をコントロールできなくなり、「やめたくてもやめられない状態」に陥る病気だ。しだいに社会生活が困難になり、家族など周囲の人にも悪影響を及ぼすようになっていく。
医学的には「嗜癖」という言葉が使われており、アルコールや薬物などに対する物質依存と、特定の行動やプロセスへの依存(行動嗜癖)の2種類ある。ギャンブル依存症は後者の行動嗜癖に当たるが、実は今、その低年齢化が進んでいるようだ。
ギャンブル依存症問題を考える会は、相談会に来た当事者の家族を対象にアンケート調査を行っている。その回答によれば、2019年に28%だった20代のギャンブル依存症者の割合は2023年に37%へと増加、20~30代の相談が8割弱を占めるようになったという。
同会代表の田中紀子氏は、その理由をこう説明する。
「背景にあるのが、スポーツベットを含むオンラインカジノの存在で、とくにコロナ禍以降、利用者が増えています。当会でも2019年に8件だったオンラインカジノの相談が2023年には97件と増加し、中には高校生の相談もあります。スマホ1台あれば簡単にアクセスできるようになってしまったことが大きいですね。以前はギャンブル依存症といえばパチンコなどがメインでしたが、今の若い世代はオンラインを通じたギャンブル依存症がほとんどです」
日本ではオンラインカジノは違法だ。海外で合法的に運営されているオンラインカジノでも、日本から利用すれば違法となる。そのことを知らない若者も多いのだろうが、スマホでアクセスしやすくなったとはいえ、高校生が違法賭博に引き寄せられてしまう入り口はどこにあるのか。
「デジタルネイティブの若い世代は、スマホを通じてYouTuberの実況動画やスポーツ選手が出ているSNS広告をきっかけに興味を持ってしまうのです。最近はだいぶ落ち着きましたが、海外チームに所属する日本人サッカー選手の広告は多かったですね。合法的にオンラインカジノを運営している海外サイトと所属チームが契約しているため、選手はCMに出ていたわけです。しかし、オンラインカジノが違法である日本をターゲットとしたCMに、日本人選手が出演するのはいかがなものかと思います」
現状、インターネット上には違法賭博につながってしまうさまざまな罠があるということだが、高校生がお金のやり取りをすることは可能なのだろうか。
「アカウント登録や出金には身分証明書の提出が必要で、基本的には高校生は利用できません。しかし、登録済のアカウントを売る業者から、ペイペイなどでアカウントを買って遊ぶ子もいます。高校生はアルバイトで自由に使えるお金も手に入るので、簡単に始めることができてしまうのです。また、ギャンブル好きの友人に感化されてしまうケースも。オンラインカジノのアフィリエイトサイトには、自分にも友達にもポイントがつく友達紹介制度などの案内もあるため、友達同士で広がりやすい。部活の中で流行っているという話も聞いています」
リアルのギャンブルよりも依存症になるスピードが速い
犯罪がらみの相談も年々増えており、同会の調査によれば、オンラインカジノも含めてギャンブルをやっている人は、オンラインカジノをやっていないギャンブラーよりも逮捕・犯罪率が高いという。若者の場合は、お金の工面の際に闇金に手を出して闇バイトに勧誘されるケースや、ネットの扱いに長けているので違法にお金を得る手段につながりやすい傾向があるのではないかと田中氏は推察する。
また田中氏は、オンラインのギャンブルは依存症になるスピードが速く、重症化しやすい傾向にあると警鐘を鳴らす。
「麻雀やパチンコなどと違い、オンラインカジノやスポーツベットは24時間365日できてしまうので、やめ時がありません。また、いくらでも賭けられるのであっという間に使う金額が大きくなります。親御さんが気づいた時には600万円入っていた銀行口座が空になっていて、慌てて相談に来たケースがありました。オンラインの公営競技においても、3000万円をつぎ込んだ高校生もいます。両親、祖父母、おじおばまで親戚中のお金を使っていたのですが、お金を出さないと暴れてしまうので、大人たちがお金を出し続けてしまったのです。とくに地方は世間体を気にして家族で抱え込む傾向があり、深刻な問題となっています」
同会が研究者と行った調査では、ほどほどにギャンブルを楽しめる愛好家のギャンブル開始年齢が平均30.6歳であるのに対し、依存症者は18.1歳という結果が得られたという。
「ギャンブルを始めるのが早いほど依存症になりやすい傾向があると言えます。少なくとも学生の間はギャンブルをやらないほうがいいでしょう。昔からギャンブルをやっている学生はいましたが、麻雀やパチンコなどリアルなものが中心で、一気に依存症になることはありませんでした。しかし、今の若年層はオンラインのギャンブルがメインなので、あっという間に依存症になってしまうのです」
ギャンブル場に子どもを連れて行ってはいけない
ギャンブル依存症になりやすいタイプや傾向などはあるのだろうか。
「ギャンブル依存症は誰でもなる可能性がありますが、第一の危険因子は遺伝だと言われています。また、親が依存症ではなくても何かしらギャンブルをやっていれば、その子どもは小さい頃からギャンブルに親しむことになり、依存症のリスクが高くなります。近年はさまざまな公営競技でキッズスペースを設けたり、子ども向けイベントを行ったりしていますが、ギャンブルが行われる場に子どもを連れて行ってはいけません。それで後悔している親御さんを何人も見てきました」
また、ギャンブルが身近にある環境で育った子のほかにも、ギャンブル依存症のリスクが高い子どもがいるという。
「海外の研究では、引退したアスリートはギャンブル依存症のリスクが高いことがわかっています。当会でも、運動部でバリバリ活動していた子が引退後や受験後に、打ち込むものがなくなってギャンブルにのめり込んでしまうという相談は多いですね」
では、実際に子どもがギャンブル依存症になってしまったら、どうすればいいのだろうか。田中氏によれば、①依存症に対するスティグマを払拭すること、②本人が相談しやすい体制を作ること、③家族が正しい知識を持つこと、という3つがポイントだという。
「まずは偏見を捨て、家の中で抱え込まずにご家族が相談機関に行きましょう。そして、本人の借金の尻拭いをしないこと。家族がいっさいお金を出さなければ、本人も相談に行かざるをえなくなりますから。民間の相談機関である当会では、さまざまな職業や年代のギャンブル依存症経験者が支援に当たっていて、相談者の状況に合わせてGA(Gamblers Anonymous:自助グループ)や回復施設につないだり、借金の解決に当たったり、きめ細かいサポートを行っています。高校生や大学生の当事者の場合も同様に、GAを紹介して、歳の近い仲間とつないであげるようにしています。ギャンブルサイトをブロックするアプリ『Gamban』をスマホに入れ、本人の家族にパスワードを設定してもらうなどの環境づくりも支えています」
実は「学校教員」にも多いギャンブル依存症
ギャンブル依存症の若年層が増える一方で、親のギャンブル依存症に悩む若者たちもいる。
「ギャンブル依存症は、家族にも大きな影響を与える問題。ギャンブル依存症の家庭では子どもの不登校は多いですし、学校講演で『学生の間にギャンブルをやると人生が台無しになってしまうよ』と話すと『もっと早くこういう話を知っていたら、親は離婚せずに済んだかもしれない』と言う子もいます。父親のギャンブルで家族が揉めている時に依存症の問題を知った高校生は、母親にGAM-ANON(ギャマノン:当事者の家族のための自助グループ)を勧め、そのことを機に父親もGAに通うようになったケースがありました。知識があればできることがありますから、教育は重要です」
では、学校ではどんな対策が必要だろうか。新学習指導要領では高校の保健体育にギャンブルを含む行動嗜癖が盛り込まれているが、十分と言えるのだろうか。
「子どもたちに正しい知識を伝える取り組みは、まだまだです。中学生くらいから教育を行うべきでしょう。一方で、実は、ギャンブル依存症当事者の職業のトップ3に入るのが教員です。教員は完璧を求められるうえ、一人で問題や悩みを抱え込みがち。アルコール依存症も教員は多いと聞きます。まずは教員のメンタルヘルスのためにストレス対策が必要だと思いますし、教員が依存症の教育を受けられるようにしてほしいですね」
ギャンブル依存症から回復するには、早めに相談し、GAとつながることが重要だという。同会のような民間の支援団体のほか、全国の保健所や精神保健福祉センターで相談を受け付けている。厚生労働省の「依存症対策」や消費者庁の「ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ」などのウェブページにも、相談先のほか、ギャンブル依存症について理解を深める情報がまとめられているので参考にしてほしい。
(文:吉田渓、注記のない写真:Graphs/PIXTA提供)