シンガポール在住、ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。前回はシンガポールの教育環境についてまとめましたが、今回は世界の富裕層の教育事情について紹介したいと思います。相続税や贈与税などの税負担を抑えられるシンガポールには、世界の富裕層が集まります。そんな世界の富裕層は、子どもの習い事や進路のことをどのように考え、好きや得意を伸ばしているのでしょうか。

花輪陽子(はなわ・ようこ)
シンガポール在住、ファイナンシャルプランナー
青山学院大学国際政治経済学部卒業後、外資系の投資銀行に入社。米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻を引き金に起こった世界同時不況「リーマンショック」のあおりで、2009年夫婦同時失業を経験。投資銀行を退職し、猛勉強の末、ファイナンシャルプランナーに転身。15年に夫の海外転勤をきっかけにシンガポールへ。1児の母
(写真:花輪氏提供)

シンガポールで18歳まで一貫のインターナショナルスクール(以下、インター校)に通わせていると、小学生の保護者も高校生の保護者や教員などと話す機会が多く、進路のイメージを逆算して考えることができます。とくに米国の大学進学を視野に入れていると勉強だけではなく、課外活動を通じたリーダーシップ、スポーツや音楽などの才能まで評価されることになります。日本の大学受験と違って、短期集中型の勉強ではなく、小さな頃から時間をかけて積み上げていく必要があります。そのために幼少期から“大好き競争”が始まるのです。

シンガポールで人気の習い事は?

人気の習い事としては水泳、テニス、サッカー、テコンドー、バレエ、音楽、アート、プログラミング、語学、算数などがあります。一年中常夏のために、多くの子どもが水泳を習っているのがシンガポールの特徴です。

競泳のジョセフ・スクーリングは、シンガポールに初のオリンピック金メダルをもたらしたことで有名です。ジョセフ選手のご両親は、スイミングのレッスン費用を含む教育費として、億単位の投資をしたとの噂も聞いたことがあります。シンガポールは、東南アジア競技大会で人口当たりの金メダル数が圧倒的に多く、その多くは水泳で獲得しています。

娘のインター校でも小学校低学年から水泳の選抜チームがあり、4ストロークとターンなどのテストを受けて遠泳の練習をするようです。そのチームに入っている中国人の女の子の保護者に聞いたところ、放課後はつねに子どもの髪の毛がぬれていると言います。私の娘(日本では小学校2年生)も小さい頃にYMCAに通わせており、日本の小学校や学校の授業では水泳を褒められるレベルではあります。ですが、選抜レベルには到達しておらず、もう少し競争が少ないスポーツを探そうと決めたほどです。

プログラミング、レゴロボティクスなども人気があります。ローカルスクールではマウスを使ったタイピングも小学校1年生ごろから教えているようです。ロブロックスなどのゲーミングクラスを体験させたところ、タイピングとライティングが弱いので、もう少し練習をしてから参加するようにアドバイスを受けました。スクラッチやマインクラフトなどのクラスはタイピングができない低年齢の子どもにも人気があります。

プログラミング教室では3Dプリンティングも体験できる
(写真:花輪氏提供)

ちょっと変わった習い事としては、セーリング、ポロ、クリケットなどがあります。セーリングの場合はヨットを所有・保管しなければならず、お子さんに習わせている友達も維持費や運んだりするのが大変だと言います。

乗馬をしながらゴルフのような動きをするポロも高額な習い事です。インストラクターにかかる費用以上に馬にかかる費用が膨大だからです。40分程度のプライベートレッスンの場合、3万円程度かかると聞きました。友達はグループレッスンを週2回受けさせていて、ポロに月13万円程度かけているそうです。

中学生くらいからはビジネス起業コンテストなどもあるようです。スニーカーを安く仕入れて転売するなどシンプルなビジネスアイデアなどもあったそうですが、起業について考えたり、チャレンジする機会を持てるようです。

このような習い事のコンペティションや進級テストなどがあるものも多く、大学受験のアピールに書ける場合もあるのでローカルの人は好んで参加する傾向にあります。習い事の運営者側も熱心に企画をしており、結構な賞金が出る場合もあります。そうした機会に向けてクラスも組まれており、初心者からチャレンジできるものが多いです。

娘もゴルフを始めて3カ月でコンペティションに参加したのですが、全員を表彰してくれ、一緒に回った組の中でも真ん中の順位だったので自信とやる気につながりました。先生がルールの説明、指導、フィードバックをくれて思い切ってチャレンジしてよかったと感じました。

花輪さんの娘さんは、ゴルフを始めて3カ月でジュニアゴルフのコンペティションに参加した
(写真:花輪氏提供)

子どもたちが習い事で忙しい

ローカル校やインター校のママたちと話をしていると、子どもたちが習い事で忙しく、送迎が非常に大変という話題が出ます。

シンガポールでは習慣的に小学生の子どもを1人で行動させることは少なく、親が付き添うのが一般的です。そのために子どもの人数が多いと、それぞれの習い事の送迎だけでも一仕事になります。また、小学校の高学年になるとしだいに学校での勉強も複雑で難しくなってきます。学校の宿題をこなし、毎日のルーチンをさせる時間を確保する必要も出てきます。

そんなこんなで、わが家は習い事を思い切って整理しました。これまで、ジムナスティックス、バレエ、ピアノ、アート、乗馬、テニス、水泳、そろばん、ガールスカウトなど、さまざまな習い事を2〜4歳などの低年齢からやらせてみました。最初のうちは教室で寝ていたりすることもあったほどでした。低年齢のときは時間もあり、塾代などもまだかからない時期だったので、とにかくたくさん試させたのです。

小学校高学年になると、日本でも中学受験などで時間もなくなり、親の費用負担が大きくなって習い事を減らす家庭が多いと聞きます。わが家も同じような境遇に陥り、思い切って習い事をゼロベースで考えることにしました。つまり、いったん白紙に戻して、本当に必要なものだけに絞るという作業をしたのです。

長く続けていた習い事は惰性で続けてしまいがちですが、本人がやる気がないものはどんなにお金をかけても身になりません。お金持ちの子どもたちが乗馬のグループレッスン中におしゃべりをしていたりするのを見たこともあります。そこで好きや得意を生かし、親がやらせたくて始めたもので本人の希望ではないものはバッサリとカットしてみたのです。大人になって本人がやりたくなったら、また再開すればよいと考えました。そうしたところ、お金や時間に余裕が生まれ、楽になりました。

お金だけに頼らない、毎日のルーチンは最強

実は富裕層がやっていることの特徴として、お金をむやみにかけるよりも毎日のルーチンをしっかりつくっていることを挙げることができます。1日30分でもよいので、よい習慣を子どもに続けさせるのです。例えば、日記を書く、本を読む、算数のプリントをする、算数や読書のアプリをやる、運動をさせるなどです。

お手本になる家は遊びに行く前にこうしたルーチンをやらせていたりします。わが家は自宅に帰ったら、まずおやつを食べてリラックスタイムをつくらないとなかなかやらないので感心します。また、カフェなどの待ち時間についついiPadを与えてしまいそうなときでも分厚い本を子どもに渡して読ませたり、日記を書かせている親もいます。なかなかすべてはまねできませんが、そういう親子を見て毎回戒められます。

シンガポールには天才的な子どもがたくさんいます。そのために、他人と比較をしても無意味であると早くから知ることができました。子どもの性質、環境など多種多様だからです。

ですから、他人との比較ではなく、自分の子どもの過去と現在との比較に集中するように心がけています。また、あまり欲張りすぎずに優先順位をしっかりつけて、打ち込んでいること、学校の宿題など絶対にやらなければならないことを優先させるようにしています。焦り、悩むことも多いですが、子どもの力を信じて、毎日コツコツと継続させて複利効果を待つしかないと感じるのです。

(注記のない写真:Wasabi35 / PIXTA)