製造コストが頭打ちに?
丸山 (ロケットの)最適な形っていうのは、業界内的にも決まってない感じなんですか?
眞鍋 そうですね。ロケットの主流は、円筒状の使い捨てロケットです。もともとは、技術の原点が、第2次世界大戦のドイツのV2ロケットって大陸間弾道弾からミサイルが始まったといわれてますし、それで使い捨てロケットが非常に世界で多いっていうのが、その理由ではあると思います。
ただ、われわれの有翼式っていうのは、それとは全然違う技術で、ある程度、飛行機のノウハウも必要になってきますし、これから民間が主導で宇宙開発が進むってなったときには、 使い捨てだと2つ課題があると思ってます。
1つが、どうしても毎回作らなきゃいけないんで、製造コストが一定で頭打ちですね。どれだけ下げられるとしても。
で、再使用の場合は、飛行機は1万回とか2万回飛べる設計になってますけど、一応、机上の計算では30回再使用できれば、使い捨てよりはコストメリット出せるという計算になってまして、われわれもまず、当面100回再使用を目指そうとしてます。
100回で止まるんじゃなくて、やっぱり飛行機と同じように、何万回って飛べるようにしていけば、1回の打ち上げコストが思いっきり下げられる可能性を秘めてるっていう感じですかね。
ロケットにも必要な「環境」という視点
あとは、もう1つの課題が、使い捨てってことは海に捨ててるんで、打ち上げ頻度が増せば増すほど、環境問題にいってしまうだろうと考えています。
ロケットの燃料って、ケロシンっていう飛行機の燃料を使ってたり、ヒドラジンていう毒性の強い燃料を使ってるロケットも非常に多いので、燃料が全部使い切られることなく海に捨てられてるっていうのが現状なんですよね。
それを考えると、まだ今の頻度ぐらいだったら、あんまり影響ないかもしれないですけど、飛行機と同じぐらいの頻度で打ち上がる日が来たときには、海に捨てて宇宙に行くっていうのが、どっかで限界がくるかなとは思っています。
丸山 そうなってくると、数十年先の技術者に、当時の技術は何考えてんだって突っ込まれそうですもんね。
眞鍋 そうですね。いや、今でも結構、私みたいな外から来た人間からすれば、ロケットってすごく変な業界だなと思ったんですよ。モビリティーと呼ばれているもので、使い捨てているものなんか地上にはないんですよね。
車にしろ、船にしろ、飛行機にしろ、あらゆる乗り物と呼ばれているものは、別に片道切符の乗り物ってないので、そう考えると、ロケットっていうのが、海に捨てるのが当たり前だっていう常識が、逆に業界の常識が非常識なんじゃないかっていうような感じです。
丸山 それは、私もロケットを調べてて感じたことがありますね。今だとコストっていうものをとにかく考えなきゃいけないから、安く上げるっていう部分で、打ち上げて戻ってこなくても目的を達成すれば、それでOKっていう。
まだ、そんなに頻度も多くないから使い捨ててもOKって、先ほど眞鍋さんおっしゃった、そういう現状、そういうもんなんだと思って、無理やり納得はしましたけど、でも、先々のことを考えると、確かに難しくなりますよね。環境に優しいロケットっていうか、そういう発想が必要になってきますよね。
眞鍋 そうですね。
約1時間で地球上のどこにでも行ける
丸山 SPACE WALKERさんが今後、提供していこうとしている宇宙旅行というのは、具体的にどこまで行って、どういうプランで帰ってくるっていうのは、今のところ想定されてるんですか?
眞鍋 宇宙輸送とP2P輸送(高速2地点間輸送)っていうのを最終ゴールで掲げてます。
これで言っている宇宙輸送は、例えば、国際宇宙ステーションと地球の行き来であったり、 月や火星に行って帰ってくる、プラス宇宙空間上での移動ですね。月から火星に行くのも、宇宙輸送の1個だと思いますけど。最終ゴールはそこにあります。
もう1個のP2P輸送っていうやつは、もうちょっとわかりやすくて、地球上の2地点間を 宇宙空間を経由して移動するっていうものです。
例えば、東京からニューヨークまで、宇宙空間を経由して移動しようとすると、計算上は40分で移動が可能です。それでいくと、地球上のあらゆる場所に、P2P輸送で宇宙空間を経由すれば、だいたい1時間前後ぐらいでどこでも行ける未来が来る。
2020年代で必ずやりたいこと
眞鍋 それが最終ゴールだとして、いきなりそこに行こうとしても、まだ技術的な問題もありますし、あとは世界中の法律がまだ整備されてないので。今いきなりアメリカに突っ込んで行ったら、それこそ国際問題になりかねないっていうとこがありますので。
まずは、その手前では、宇宙空間にちょっと触れて帰ってくる。去年の7月にアメリカで ブルーオリジンとヴァージンギャラクティックが、サブオービタル宇宙旅行をやりましたけど、あれがその手前であるステップですと。
で、もう1つ手前、2020年代で必ずやりたいと思って進めているのが、無人ミッションですね。
さっき言ったように、われわれの機体っていうのがオートパイロットで飛びますので、そのシステムの実績をしっかり積むために、まずは無人でオートパイロットの技術を証明したい。
で、その無人ミッションの中でいちばん大きなマーケットがあるのが、冒頭言ってるような通信衛星とか、あと観測衛星っていう人工衛星の打ち上げサービスですね。
今、世界全体で5万機ぐらいの衛星打ち上げが計画されているので、これを打ち上げるというのが1つ前のサービスになります。
※対談の様子は、YouTubeチャンネル「探究TV / 東洋経済education×ICT」で配信中
ジャーナリスト、国学院大学学術資料センター共同研究員
1977年宮城県生まれ。国学院大学卒業。同大大学院修了。出版社勤務などを経て独立。テレビ番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を取材するフリージャーナリストとして注目を集める。漫画の原作を手がけるほか、YouTubeチャンネル『丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー』を配信するなど多方面で活躍。『世界ヤバすぎ!危険地帯の歩き方』(産業編集センター)など著書多数
SPACE WALKER 代表取締役CEO、公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。2008年に公認会計士試験に合格し、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)へ入社。監査業務やIPO・M&A業務などに従事した後、12年に独立開業し、大手企業の経営コンサルから個人の開業・法人設立の支援まで、幅広い企業サポートを行う。17年に宇宙関連ベンチャー「SPACE WALKER」を共同設立。18年より現職