その仕事が「本質か本質でないか」を見極める

今年度は6年担任と研究主任、ICT主任を務める坂本良晶氏。それでも毎日ほぼ定時の17時に退勤しているという。約7年前、複数の主任を兼任しながら自身の子どもの保育園の送り迎えもしなければならなくなったときに、働き方を根本から見直してからずっとだ。

「今は残業もできるけれど帰ったほうがいい。そのほうが、ほかの先生も帰りやすくなるし、後輩に背中を見せたい思いもあるんです」と話す。生み出された時間は家事や情報のインプットに使う。一方アウトプットも教育オンラインサロンEDUBASEの運営、書籍執筆、SNSでの発信と多様だ。

こうした時間を多くの教員が持てず、長時間勤務で疲れ切ってしまう原因は「本質的な仕事も、そうでない仕事もすべてを丁寧にやっていこうとするマインドセットにある」と坂本氏は指摘する。

ここで言う本質とは「子どもが楽しく学べるようにすること」が教師の仕事だということ。本質に照らした「選択と集中」をせず、全方位的に仕事をするから「終わらなければ残業すればいい」という理屈が生まれやすい。

学級通信と学年通信を統合する代わりに、学級通信はICTを活用して作り込む
(写真:坂本氏提供)

「これまで学校の当たり前と思ってやってきたことの中には、教師の仕事の本質とはかけ離れたものも多くあります。子どもが楽しく学べるという本質に影響しないのであれば、仕事を削ったり、もっと効率のよいやり方に変えても問題ありませんよね。“限られたマンパワーで仕事をしているのですから、ここは妥協しましょう”と学校中を説得して回ったこともあります」

学級通信と学年通信の統合もそうだ。1学年1クラスの単学級で2つを作り分ける必要はない。その代わりに学級通信はICTを活用して作り込む。子どもの様子が動画で見られるようスマホで読み取れるQRコードを埋め込み、保護者がコメントを書き込めるようにした。

「子どもも保護者が自分たちの様子を動画で見てくれると思ったら、頑張ろう!と思うはずですし、保護者にも見てもらえる。コロナ禍で希薄になった学校と家庭を再び結び付けることができるなら、これは時間をかけてでもやるべきではないでしょうか」

ストックを消費してピークを乗り切る発想が欠けている

坂本氏が業務の軽重を見極める目を養ったのは、教職に就く前に大手回転ずしチェーンで店長として働いていた時のこと。店舗運営をスムーズにするコツは、「客の少ない時(アイドルタイム)にシャリを炊いてネタを準備する」など仕事のストックを作っておき、客であふれるピークタイムにストックを消費しながら乗り切ることだ。これが徹底できなければ現場は回らないことを学んだという。

プリントやテストを刷っておくなど、長期休暇中に仕事のストックを作っておく
(写真:坂本氏提供)

この考え方を学校に置き換えるとアイドルタイムは長期休業中、ピークタイムは学期中となる。やることがすでにわかっている3学期の漢字テストや計算プリントは、冬休み中にすべての回数を人数分刷って用意しておき、学期中はそれらを消化しながら進めていけば新学期早々に残業ということにはならない。そう言うと「休みは休み」「残業の前借りにすぎない」と反論する人もいるが、長期休業中の勤務日だけでも働き方を見直す価値がありそうだ。

さらに学期中も、できるだけ授業中に終わらせることで減る仕事も多い。例えば、作品の掲示は子どもに張ってもらう、テストも見直しを促したうえで終わった子から持ってきてもらって丸つけを終わらせるなどだ。従来の当たり前を変えると当然異論も出るが、「学校を主語にして公立学校としてどこまでみんなができるか、可能性に懸けたい」と話す。

作品の掲示は子どもに張ってもらうなど、できるだけ授業中に仕事を終わらせる工夫をしている
(写真:坂本氏提供)

共同編集や動画共有で校内研究の生産性もアップ

限りあるリソースで校務の生産性を高めるには、やはりICTの活用も外せない。ICT主任を務める今年度は、自身の活用法を見せながら組織全体に波及するよう「校内インフルエンサー」に徹している。

4月に転入してきた教員の紹介は、クイズ作成アプリ「Kahoot!」を使いながら行った。新年度にICTの校内研修を入れる時間のゆとりはないが「あれは何?」「授業で使えるかも」と、ほかの教員が興味を示してくれたらしめたもの。坂本氏はこれを「ステルスICT研修」と呼んでいる。

各学年で1単元取り組むプロジェクト型学習では、単元計画や指導案を「Microsoft Teams」上に置き共同編集ができるようにした。ほかの学年の教員や管理職も閲覧・コメントの書き込みができるため、参考になるうえ、打ち合わせをしなくても指導案は完成する。とくに複数の教員が受け持つ特別支援学級では作業効率がぐんと上がったという。

研究授業後の協議会は対面で開くが、アナログな方法は極力使わない。授業を撮影した動画をデザイン作成アプリ「Canva」に埋め込んでおき会場で再生。コメントは各自がその場で入力して共有する。これで指導案を人数分印刷して配付したり、動画データを移動させる手間が省ける。「便利さを体感してもらい、子どものわくわくするシーンを創出するのがICT活用を進めるコツ。教育の生産性アップはボトムアップで進めたい」という。

研究授業を撮影した動画を「Canva」に埋め込んでおき、授業後の協議会で再生する
(写真:坂本氏提供)

校務がAIで爆速になったら働き方はどうなるか

坂本良晶(さかもと・よしあき)
京都府公立小学校教諭
Teacher Canvassador(Canva認定教育アンバサダー)
1983年生まれ。大学卒業後、大手回転ずしチェーン「くら寿司」に勤務し、店長として全国売り上げ1位を記録。教員を目指し退職後、通信制大学で教員免許を取得。「教育の生産性を上げ、子どもも教師もハッピーに。」を合言葉に日々発信するTwitter「さる@小学校教師」のフォロワーは4万人超。2023年5月Canvaから認定を受けTeacher Canvassadorに就任。著書に『生産性が爆上がり!さる先生の「全部ギガやろう!」』『さる先生の「全部やろうはバカやろう」』(ともに学陽書房)などがある
(写真:坂本氏提供)

今、坂本氏が最も注目しているのが生成AIの活用だ。子どもたちの学びに変革をもたらすといわれる生成AIは、働き方改革にも及ぶと予想する。

「『Microsoft 365 Copilot』のような対話型AIを組み込んだサービスが一般化すれば、校務の生産性が劇的に上がると思います。例えばExcelで表を作り、1年生、2年生と入力すると自然に3、4、5、6年生まで入力され、さらに子どもの氏名を入力したら人数をカウントする関数が自動で入るとか。あるいは、これまで苦労していた大規模校の時間割が瞬時に組めるようになる。そんな世界が間もなくやってきます」

授業も同様で、子どもたちがAIを活用するようになれば、今ある学び方も確実に変わっていくに違いない。その先にある教師の働き方は、どうなっているのか。坂本氏は続ける。

「ICTを活用した働き方のスキルがAIによってコモディティー化するのであれば、教師に求められるのはAIを活用して学校教育がどのような価値を生み出せるかをデザインすることではないでしょうか。AIに軸足を置きこれからも働き方、学び方を変えていきたいですね」

教育の生産性向上に向けた坂本氏の次のチャレンジはもう始まっている。

(文:長尾康子、注記のない写真:sasaki106 / PIXTA)