うつで働けなくなり知った「ボードゲームの魅力」 ボードゲームは個人の属性も能力差も乗り越える

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『ディクシット』(販売元:ホビージャパン ©︎ Libellud)。カードの絵画にタイトルをつけ
て遊ぶ。お互いの感じ方を想像することで楽しむので、能力差が表に出にくい

小野 大事な視点ですね。いまボードゲームがブームといっても、プレイに数時間かかる重量級のゲームを好むマニアは、急には増えません。新しく参入する人たちはむしろ「見た目がインスタで映える」「プレイ中の会話で笑える」といった、親睦を深めるためのきっかけを求めている。でも、そうしたライトなファンの分厚い層に支えられてこそ、やがてディープなマニアも育っていくわけです。

日本でのボードゲームの流行はまだ日が浅い分、ボウリングやカラオケなど従来の「遊び」と比べても、上手い/下手といった能力差が顕著になりにくい面があります。ボードゲームカフェが想定以上に定着したのには、そうした背景もあったと思います。

「属性を忘れる」体験が平等感を養う

小野 近日知って興味深かったのですが、ある地方都市のボードゲームカフェでは、お客さんどうしの「自己紹介は原則しない」というルールを設けているそうです。なぜかというと、お店で相席した初対面のメンバーでプレイする場合、自己紹介で相手の属性がわかると、自由に振る舞えなくなってしまうことがあるでしょう?

與那覇 確かに。もし相手が「博士号を持つ歴史学の専門家です。私に言わせると、このゲームは史実に忠実ではなく間違っています」とか名乗ってきたら、あまり楽しく遊べない気がしますね(苦笑)。

小野 純粋にゲームだけを楽しむためには、「自分は何者か」「普段どういうキャラか」みたいなことを一回忘れた方がいいので、あえて自己紹介はしない。別にルールとして設けていなくても、大都市のお店のゲーム会などでは、自ずとそういうマナーが生まれることもあるようです。名前をいちいち名乗らず、「緑のコマの方」のように呼びあうとか。

與那覇 2022年に刊行した『過剰可視化社会』(PHP新書)で使った用語でいうと、「逆カミングアウト」になりますね。自分が持っている属性──たとえば会社や大学の名前、家族構成といったものを名乗らずに、一切伏せる。それでも居合わせた他者からケアしてもらえることで、人は「俺は俺でいるだけでいいんだ。属性を失ったから無価値だなんてことは、ないんだ」と実感できるようになる。

重要なポイントは、まさにボードゲームと同じく、逆カミングアウトの効果は「対面」でないと十分に発揮できないことです。

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