「ネットには匿名性も必要」と平野啓一郎が思う訳 メタバースでの「思いがけない差別」に教育的価値

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――テクノロジーに興味を持ち始めたきっかけは?

さかのぼると、自分が10代だった1980、1990年代は「SFブーム」で、未来の世界への想像がいろいろな方向に膨らんだ時代でした。核戦争で人類全滅みたいな破滅的なものもあれば、空飛ぶクルマみたいなものも。

ただ21世紀になると、そういう想像とは違った方向で社会が変わっていったように思います。僕自身もインターネットの登場前後を経験した世代なので、とくにネットがすごく世界を変えた実感があります。

小説はやっぱり、現実の世界に生きている人たちが読むものなので、(技術の進化で)実際に何が変わっていくのかをうまくつかんでいかないといけない。だから、今の世界で最も変化の激しいネット世界、テクノロジーには注目せざるをえないと思います。

文学に久々に与えられた「自由空間」

――とくに「メタバース」は、その概念が一般に浸透する以前から平野さんの作品に登場しています。

理由の1つには、小説の技術的な面が挙げられます。

(作家は)みんな、現実に拘束されない自由なイマジネーションの領域を確保したいと思っています。ずっと昔はそれが、例えば外国でした。外国に行ったことのある人がまだ多くないから、どんなことを書いても「そうなんだ」と思って読んでもらえるわけです。

ただ、今は現地に行ったことのある人、住んでいる人がたくさんいて、ネットにもいくらでも情報がある。題材にしようにもあまり自由じゃないんですね。それで僕としても、『ドーン』という作品では宇宙空間を描いてみたり、いろいろとイマジネーションの領域を探してきました。

その意味でメタバースというのは、文学に久しぶりに与えられた、何が起きてもいい”自由な空間”です。僕もそのありがたみを感じながら書いているところはあります。

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