同盟国に応分の負担を求めるとするトランプ氏がアメリカ大統領に返り咲いたことで、日本も対米関係再設計の議論を始める時ではないか。自発的隷従の態度に陥るのではなく、まずは日米地位協定の見直しからスタートしたい。
通商政策を考えるうえでも湛山の視点は参考になる。湛山は、「先ずは功利主義者たれ」と説いた。自分たちだけ儲かればよいという趣旨ではない。自分たちの利益を追求しようと思ったら、おのずと相手の利益も考えなければならないという意味だ。自由貿易を唱え続けた湛山らしい戒めだ。
だが、世界経済は保護主義の方向へ進んでいる。トランプ新大統領は、中国からの輸入品に60%の関税をかけるらしい。矛先は中国だけではない。日本製鉄のUSスチール買収に反対する姿勢からもわかるように、同盟国である日本にも容赦しないはずだ。
だが、アメリカが誘導する保護主義の潮流に、ただ流されるだけでよいのか。歴史を振り返ると、ブロック経済や保護主義は世界大戦につながるリスクを孕む。日本の戦後の繁栄をもたらしたのは、産業技術をベースとした自由貿易であった事実を、もう一度噛みしめる時だ。
問われる構想力
病気のため2カ月ほどで総理大臣の職を辞した湛山は、その後、日本が西側諸国と共産圏の懸け橋となるべく「日中米ソ平和同盟」を提唱した。東西の対立構造にただ引きずり込まれてゆくのではなく、紛争を予防、抑止するために対立国同士が結びつきを強める必要があると唱えたのだ。このくらい大胆な構想力が必要だ。
日本をはじめ世界各国は米中覇権対立によって引き裂かれようとしているが、グローバルサウス諸国は、どちらにつくのか踏み絵を踏ませるような大国のやり方に反発している。米中2極秩序で世界を認識するのではなく、全員参加型の新たな国際秩序が組成されつつあることを理解しなければならない。
一般財団法人・日本総合研究所の寺島実郎会長は、「国連アジア太平洋本部」機能を沖縄に誘致する構想を掲げている。沖縄を、世界の紛争予防、解決、平和維持のための拠点にするという構想だ。中国が台湾に攻め込むという危機感が煽られるなか、岸田政権は防衛予算を大幅に増やすことを決めた。しかし本当に必要なことは、この地で紛争を起こさせない枠組みだ。寺島氏も、石橋湛山研究会の講師として招かれた識者の一人である。
政権運営の打開のためだけでなく、通商政策から安全保障政策まで、湛山には多くのヒントが詰まっている。石破政権が湛山をうまく活用できれば、「前途は実に洋々たり」である。
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